ニューヨーク・タイムズ紙「2023年に行くべき52カ所」に「盛岡市」が選ばれました!!
2023年1月12日にアメリカのThe New York Times(ニューヨーク・タイムズ)が「52 Places to Go in 2023 (2023年に行くべき52か所)」を発表し、イギリスの首都ロンドンに続く2番目に盛岡市が紹介されました!
今回の記事では、盛岡市を「歩いて回れる宝石的スポット」と高評価。東京から新幹線で数時間で行ける便利さ、大正時代に建てられた和洋折衷の建築美の建造物、盛岡城跡公園、「NAGASAWA COFFEE」「東家」「BOOKNERD」「開運橋のジョニー」などが紹介されています。
クレイグ・モドさんが、盛岡推薦の背景を綴ったニュースレター
クレイグ・モドさんが、盛岡を推薦した詳しい背景などを綴ったニュースレターを紹介します。(モドさんのご了承を得て、和訳を掲載しています。)
盛岡でのひととき
盛岡に行き記事を書いただけなのに、身に余る多幸感に包まれた。
盛岡。なんてこった。
この1か月は、僕にとって、予想だにしない月となった。高揚感に包まれ、ときには疲労感に襲われ、とはいえ、基本的にはエネルギーが沸いてくる刺激的な日々だった。
何の話かはNYタイムズの記事を読んでもらえばと思うが、僕のニュースレターの読者の皆さんには、より詳しい裏話をお伝えしたい。(これと合わせて写真満載のサイトRidgelineに盛岡の人たちを取り上げているので、見てほしい。)
タイムズの記事の冒頭はこんな感じだ。
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NYタイムズ紙の旅行部門のデスクが「2023年に行くべき52か所」の候補地推薦の募集を開始すると発表したとき、僕の頭にはすぐさま日本の盛岡市が浮かんだ。
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僕が初めて盛岡を訪れたのは、2021年の春、しかも午後の時間帯だけだった。
が、この盛岡市という街は、衝撃的だった。思いがけなく生き生きとした街で(「東北地方」から想起されるイメージからするとなおさら)、川や山々の自然が、散策にぴったりな街中の景色に美しく溶け込んでいる。おいしいスコーンやコーヒーもある。最高の街じゃないか。
その年の後半、僕は全国10か所の中規模の街の床屋さんと郵便局を歩いて回るプロジェクトを行ったのだが、盛岡は絶対に行くと決めていた。果たして僕は盛岡を再訪し3泊4日を過ごし、ますますここが気に入った。街が若い人たちの活気で溢れているのに感激した。40歳未満の人たちの店がとても多いのだ。誰と話してもみな親切で、よそから来た人を受入れる雰囲気に溢れている。さらに、ほんの数日の滞在にも関わらず、世代を超えて受け継がれている店を多く目にし、かなり驚いた。親子、祖父母と孫、さらにはひ孫の世代までが、一緒に店を経営している(18代続いているという工房もあった)。親世代から、奪い取らんばかりに店を継ぐ子ども世代もいる。
そんなわけで、2022年10月に、タイムズの編集者が「行くべき52か所」の推薦依頼をしてきたとき、僕の心は決まっていた。盛岡。それ以外あり得ない。とはいえ、タイムズは何百人にも及ぶライターたちに同じ依頼をしている。仮に盛岡が52か所入りを果たしたとしても、まあ、リストの下の方に掲載がいいところかもしれない。僕の推薦文は当選しないだろうなと決め込んで、しばらくこのことは考えないでいた。
そして1月、「2023年に行くべき52か所」が発表された。
1番目に行くべきところは、ロンドンだった。
そして2番目にはなんと、盛岡が。
僕は編集デスクのステファン・ヒルナー氏に、このリストは順位なのか聞いてみた。「#2」はどういう意味か?掲載順はどのような考えで決まるのか?
ステファン氏はこう回答をくれた。
「ナンバーは、厳密には、順位を意図したものではありません。ただし、リストの中で、どこを上位に表示するかについては、熟慮しています。」
ステファン氏はメールでこう続ける。
「今年の52選は、なぜ旅をするのかを焦点にとりまとめています。ロンドンがトップに掲載されているのは、今年チャールズ国王の戴冠式があるなど、行くべき旅行先として時宜を得ているためです。ロンドンは、特に今年は、歴史を学ぶと共に歴史の一幕に自ら参加することができる街だからです。
盛岡に関しては、以前紀伊半島の美しいエッセイを書いたクレイグ・モドさんによる推薦だったことが大きいです。盛岡を選んだ理由を一番分かりやすく答えるなら、モドさんのこの説明に尽きるでしょう。
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盛岡市、日本
東京から新幹線ですぐ行ける、人混みなく歩いて回れる宝石的スポット。
昨年10月まで、日本は主要国の中で最も厳しい渡航制限を継続していた。今、東京、京都、大阪といった人気観光地に旅行者が戻り始めている。
しかし、岩手県の盛岡市は、たいていは通過され、見過ごされてきた。山々に囲まれた盛岡市は、日本の高速鉄道新幹線で東京から北へ数時間。市街地は街歩きにとても適している。大正時代に建てられた西洋と東洋の建築美が融合した建造物、近代的なホテル、歴史を感じさせる旅館(伝統的な宿泊施設)、蛇行して流れる川などの素材にあふれる。城跡が公園となっているのも魅力のひとつだ。
また、日本のコーヒーのサードウェーブのひとつである「NAGASAWA COFFEE」をはじめ、素晴らしいコーヒー店もある。「NAGASAWA COFFEE」では、オーナーの長澤一浩氏が自ら輸入・修理したドイツ製のビンテージ焙煎機「プロバット」を使用するほど豆にこだわる。東家は小さなお椀に盛られたわんこそばが食べ放題。「BOOKNERD」では日本の年代物のアートブックを販売。そして40年以上の歴史を持つジャズ喫茶ジョニー。車で西に1時間も行けば、田沢湖や世界有数の温泉が多数ある。
クレイグ・モド
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これを読んだら、そんないいところなら是非行ってみたいと思いますよ!
また、日本が主要国中最も厳しい水際措置を継続していたこと、旅行者は東京、大阪、京都のような有名な観光地のことは既に知っていることを考慮すると、盛岡を選べば読者にとっては嬉しい驚きとなるでしょうし、日本でまだ知られていないところを知り、評価することにもつながると思いました。
リストのかなり上位に掲載した理由については、アンドリュー・フォークさん(訳注)の動画もモドさんの盛岡の描写も素晴らしかったし、読者の皆さんはとりわけ今日本に大変な関心を寄せているので、トップに限りなく近い位置に掲載するのが理に適っていると考えたためです。」
訳注:東京在住の写真家で、盛岡推薦記事の背景の盛岡城跡公園のショート動画を撮影。
というわけだ。盛岡は、2023年の2番目となった。
「2023年に行くべき52か所」は金曜日に発表された。次の火曜日には、僕は日本で人気の朝の情報番組「スッキリ」に出演していた。日本のメディアは僕が何者かを突き止め、しかも日本語ができると分かると、インタビューの依頼が続々と舞い込んできた。いくつかで終わるだろうと思っていたが、結局、すべてのキー局、主要紙のほか、雑誌も含め、20回近くに応じることとなった。
僕は日本に暮らしてこのかたテレビを所有したことがない。居酒屋でついているテレビを除くと、テレビ番組自体を見ない。そんなわけで、各インタビューがどのくらいの視聴者に見られるのか想像もつかない。インタビューは、自宅からのこともあったし、都内のホテルで受けたこともあった(ほとんどのインタビューはトーキョーウォークプロジェクトの最中だったから、辺鄙な公園をうろついているときに毎日新聞社から取材の電話が入ってきたりした)。TBSのスタッフがホテルの部屋にやってきて、ベッドと棚の間に無理矢理体を押し込んで取材機器をセットし、僕は、追い詰められた動物さながら部屋の隅っこに収まって取材を受ける。日テレ本社に出向いてスタジオでインタビューを受ける。雑誌やテレビの取材陣は、盛岡に乗り込んで現地の様子を伝える。盛岡の空をドローンが飛ぶ。僕が記事で触れた店の店主や客にインタビューする。強烈な反響だった。毎回毎回、うんざりするほど繰り返される同じ質問は、なぜ?どうして?なんでまた盛岡を選んだのですか?!
読者の皆さんはおわかりのとおり、僕は歩くプロジェクトをこなし、田舎道からニュースレターを配信する。市井の人々について語るのが好きだし、京都の銀閣寺に行ったり伏見稲荷神社で自撮りしたりするより、家族経営の素朴な店を訪れたい。僕の関心事は、人々の暮らしの中にある。よい人生に必要なものは何か?いかにして何気ない日常の中に豊かさを見いだすか?という根本的な問いへの答えを探し続けているからだ。色んな人たちと話すことで、その答えが確固たるものになっていく。探す努力をすれば、答えはそこここに溢れている。
読者の皆さんは、盛岡のような中規模の街に僕が夢中になることに別に驚かないと思う。盛岡は、僕が街に求める基本的な要素を持っている。善良な人たちが、生き生きと暮らしているということだ。
とはいえ、盛岡が2番目に紹介され、僕には二つ気がかりなことがあった。
マズイ!この騒ぎのせいで盛岡の人たちに迷惑がかかってないだろうか。
でも待てよ。これは意味のある反響と捉えるべきかもしれない。盛岡だけでなく、少子化が進む日本のすべての中規模の街にとって。だとしたら、マスコミに一過性の話題として使い捨てにさせるものか。
だからこそ僕は、すべてのインタビューに応じることにした。ものすごい労力を要した。トーキョーウォークプロジェクトを終える頃には、長距離を歩き切り、A4にして50ページ以上の記事を書き、52選のインタビューを受け続けた僕は、すっかり抜け殻と化していた。疲労のあまり気力を喪失した。水曜日には、歩き終わり、長時間の取材を二つ終えたら(しかも一つ目の取材クルーは、開始から30分経つまで録画の押し忘れに気づかなかった)、声が出なくなった。まるで、声を出す能力が消えてしまったようだった。力尽きて、ソファで丸くなることしかできなかった。取材とウォークプロジェクトで精根尽き果てた。
このしんどい取材攻勢を乗り切れたのは、僕の一存で突然に盛岡を注目の的にしてしまったことに、大きな責任を感じていたからだ。皆にしっかり理解してほしかった。僕はこの目で多くを見てきた。全国津々浦々何千キロも旅して、何十か所もの(百を超えてるかも)市、町、村を見てきた。農家や機械工、畳職人、喫茶店店主、料理人、競馬で生計を立てている人、庭師、医師、トラック運転手まで、何百人もの人たちと会って対話をしてきた。だから、皆さん、どうか盛岡のリスト入りを、一過性の話題で済ませないでほしい。絶対にそうさせない!千載一遇のチャンスなのだ。盛岡は、気まぐれで選ばれたのでもなければ、くじ引きで選ばれたのでもない。盛岡は、本当の意味で、あのロンドンと並んで評されるに値する街だ。盛岡にしかない価値によって。
地方の人口減少が進み、若者が大都市に流出する中、盛岡のような中規模の市(盛岡は人口30万程度)こそが第2の可能性を提供してくれる。北米に例えるなら、盛岡がNYタイムズのリストで2番目に選ばれるということは、雲の彼方から神の御手が舞い降り、「2023年世界で最も重要な都市」として、ノースカロライナ州のアシュビルを選び賜う、というようなこと。日本では、NYタイムズは政治的に無色のイメージで捉えられている。絶大な信頼度(最高の信頼度が近いか)を誇る、国際報道の拠りどころ的存在だ。タイムズの影響力が過大評価されているのはやや不安を覚えるところだけど。これは天地を揺るがす一大事なのだ(アメリカ人の僕は忘れがちだが、タイムズは日本社会でこれほどにも影響力がある)。
アメリカ南部の芸術家が、遠く離れたニューヨークに行くよりアシュビルを選ぶのと同じで、盛岡にも似た空気がある。デザイナー、建築家、ミュージシャン、工芸家、シェフ、それにコーヒー愛好家たちが活き活きと暮らすコミュニティーがある。NYタイムズに寄稿した続報では、この街が未来に向かうエネルギーに光を当てようと思った。
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盛岡では世代を超えて店が受け継がれている。100年近く続く理容ヒラサワは、父子が並んでハサミを持つ。ティーハウスリーベは、児山チヨコさんと息子のリョウイチさんが経営。別の喫茶店、クラムボン(盛岡市民はよほどコーヒー好きのようだ)は、1976年に高橋正明さんが創業し、今は娘の真菜さん(39歳)が経営している。2019年に正明さんがガンで他界した後、店を継いだ。真菜さんは話す。「30年後、またいらしてください。多分、おばあちゃんになった私が奥で豆を焙煎してますよ。」
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盛岡を選んだ理由の話に戻ろう。これまで僕が歩いて回った数多くの地域を思い出してみる。活気がない街、継承者がいない街。高齢化が進み、夫婦が持つ子どもの数が減り、その頼りの子どもたちもチャンスが多い都会にすぐに出て行ってしまい、まさに存亡の危機にある街の数々。でも盛岡は違っていた。
2週間前、僕は盛岡を再訪した。行かずにはいられなかった。マスコミの大騒ぎの最中、店主のみんなとインスタ経由のやりとりを通じてすっかり仲良くなっていた(街の床屋さん企画で盛岡に来たときは、早坂さん、長澤さんとちょっと会話したけど、東家の馬場さんとは話せていなかった。)。何度もメールをやり取りした。みんなわくわくしていた。一体この騒ぎはどこまで大きくなるんだろう?ポジティブで前向きな雰囲気を感じる。早くみんなの店に行って直接様子を聞きたかった(何より、みんなが迷惑していないか確かめたかった)。
日本の公共放送NHKが、なんと僕の盛岡再訪を主要ニュースで伝える。市長との懇談に招かれる。さらに県知事との懇談にも。(注記:盛岡市から旅費提供の申し出をいただいたが、固辞させてもらった。今回の滞在は専ら自腹だ。)
街中を歩くと、通りすがりの人たちが僕を認めて目を丸くする(この1か月の露出で、1千万人くらいの人が僕の顔を見たんじゃないか)。車を止めて、窓の向こうから「クレイグさん、ありがとう!」と声をかけてくれる人がいる。「あーっ、あの人ですね!」と雪道をずんずん歩きながら、興奮した声を出す人もいる。信号待ちで目が合うと、おじぎをしてくれる人もいる。NYタイムズの続報で書いたとおり、僕が「あのNYタイムズの記事を書いた人」だと気づいて、友達が食べていたチーズケーキをくれようとしたおじいさんもいる。みんなが僕と写真を撮りたがった。70代のご婦人たちのグループや、「クレイグもどき」と書かれた上着を着た男性と写真に収まった。この男性は、自分が僕に似ているとかで、僕の名前をもじってそれを着ているそうだ。自称パパラッチのとある隠居老人は、Canonのデジタル一眼レフとズームレンズを手に、僕が行く先々で出没しては写真を撮りまくった。まるで映画トゥルーマン・ショーの主人公の気分だった。
市長との懇談は、関係者限りの行事かと思っていた。甘かった。市役所に着くと会場はマスコミですし詰めだった。30人はいただろうか。僕が入場すると、皆立ち上がり拍手で迎えた。一眼レフのシャッター音が、ドラムの連打さながらに響き渡る。ああ、ちゃんとスーツを着てきて本当によかった。市長と軽く懇談し、握手をする。すると、市長は退席してしまった。僕はひとり取り残され、大勢のマスコミ対応を自力でこなす羽目になった。(聞いてないよ!!)マイクが設置され、記者が次々に手を挙げて質問を浴びせる。なぜ?どうして?なんでまた盛岡を選んだのですか?!
あなた方の街が美しいからです。
食事がとてもおいしいからです。
市民が心優しく、がんばっているからです。
自然が街に溶け込むさまに、晴れやかな気分になるからです。
何度も何度も繰り返した。
このような街を創り上げてくれたことに、感謝します。
あなた方の街を歩かせてもらえて、私は幸せ者です。
あなたがたの街に、目に入るものに、そして街中から感じるこの街の根幹を成すものに、私は癒やされます。
このような街を創り上げてくれて、そこに私を招いてくれて、ありがとうございます。
こんな感じで、4日間の非現実的な日々を盛岡で過ごした。
僕は、BOOKNERD、NAGASAWA COFFEE、東家のみんなを、開運橋のジョニーへ連れて行った。
ジョニーの店主、照井顕さんが、日本のベーシスト、鈴木勲のレコードをかける。照井さんは、1980年代、ジョニーズというレコードレーベルを運営していた。
照井さんは忙しく動き回り、あちこちの棚から箱を取り出してはオリジナル盤のレコードの数々をテーブルや僕たちの膝の上にまでどんどん放り投げてくる。馬場さん、早坂さんともに大のレコード愛好家で、どの曲も知っていた。照井さんは、世間に認めてもらったみたいに思う、と涙ぐんだ。
行くべき52か所のメンバーが一同に会する。BOOKNERDと照井さんのコラボ企画が持ち上がる。この先の可能性で、店内は熱気に包まれていた。照井さんのレコードコレクションには、もっと敬意が表されないと。皆、握手を交わしたり、抱き合ったりする。
東家の社長、馬場さんが後から教えてくれた。「あんな照井さんを初めて見たよ。」
市民ホールのような所で、ステージ上で意見交換する催しにも招待された。50人くらいの集まりで、皆ミュージシャンやシェフ、デザイナー、アーティストの人たちだった。色々なテーマについて話し合った。例えば以下のようなテーマだ。
1)国民保険制度について
2)相続税(やその他の税)の大胆な増税による富の再分配について
3)柔軟な土地利用のゾーニングについて/ニンビズムがないことで、積極的な土地利用や、生活コスト、住宅や店舗の家賃の引き下げにつながること
4)平和な暮らし全般について(犯罪率の低さ、銃所持の禁止、麻薬やドラッグ問題がないこと)~クリエイティブな活動には心の平穏が必要だからだ。
若手の起業家やアーティストがこういったことを自ら考えて話し合うのを見て、素晴らしいと思った。普段はあまり意識しないが、2023年の今この地球上に生きている人間が本来悩まなくていいようなことにまで、脳をフル回転させて色々考えねばならない人も世の中にはいる。でも日本には、国民健康保険のような当たり前の仕組みがある。盛岡の規模の街では、リスクを取ったり、自分で店を始めたりしやすく、街のコミュニティーや文化の中心の一員になる余裕ができる。こうした小規模なビジネスの有り様は、森ビルのようなデベロッパーによる東京の巨大開発と対極にある。そこには、巨大な構造物の中に似たような店ばかりが並び、小規模事業者には手が届かず、個性のかけらもない。
盛岡は、盛岡にしかない個性や趣に溢れている。
盛岡滞在の間、道行く人たちや店の経営者と話した。盛岡が選ばれてうれしいと思っているだろうか?多くの人が肯定した。正確には、多くの人が、すごくうれしいと言ってくれた。でも、恐縮してしまっている人もいた。
「本当に?盛岡でいいんですか?こんな場所が?」
本当にいいのです!
日本国内で、こんなところは盛岡だけだろうか?盛岡に似た街はほかにもたくさんあるだろう。強固でしっかりとした社会的基盤が備わった街があり、住民が暮らしている。でも盛岡は、盛岡にしかない資質によって、根本的に際立っている。
少なくない数の若い世代がUターンしてくる。しかも自らの意思で戻ってきている。これはすごいことだ。最近の混沌とした世の中において、盛岡のような街を歩いていると実感するのだ。これを実現できている街が存在するんだ、と。
マスコミの大騒ぎもあらかた収束した。やるはずの仕事が全部遅れてしまっている。頭はまだ興奮状態にある。このニュースレターも3週遅れだ。2月には新しいプロジェクトに取りかかっているはずが、まだ手つかずだ。Kissa by Kissaの日本語版の版元を見つけなければならない。メールも大量に届き、返信が追いつかない。返信を待ってる人たちへあらかじめお詫びしたい。
NYタイムズの紙面に掲載された続報のタイトルは「盛岡―市民が活き活きと暮らせる街」。これを見て、疑問を感じる人もいるだろう。どこの市町村だって、住民が活き活きと暮らしてるんじゃないの?と。でもそれは違う。多くの市町村が、住民の生活をむしろ惨めにしている。
盛岡に観光客が殺到するんじゃないか、ということについては、僕はその心配はないと思っている。京都のようなテッパン観光地からはやや離れてるし、盛岡に行くのは少し手間がかかるように思えるし(実際はそうじゃないのだけど)、盛岡に来てみようと思う人は、好奇心旺盛で違う体験をしてみたいタイプだろうから。とはいえ、皮算用をしてみるとすごいことだ。年間にほんの3万人でも観光客が増えて、数百ドル消費したとすると、今後10年間、1億ドル以上が流れ込む算段となる。東北地方には、訪日客のうちほんのわずかしか訪れていない。訪日客の消費先を東北に持ってこれたなら、すごいインパクトとなる。
さらにすごいのは、この会員限定のプログラムSPECIAL PROJECTS(以下「SP」という。)のおかげで、今回の一件があるということだ。僕が盛岡に行ったこと自体、SPプログラムが僕のウォーク企画を支えてくれたおかげだ。過去5年間、各地を歩き回れたのもSPのおかげ。だからNYタイムズの打診を受け、盛岡を熱心に推薦することができたのも、SPの力だ。あの取材攻勢の中、何で盛岡なんか推薦しちゃったんだろ、なんてみじんも思わなかった。何度も言っているとおり、盛岡は無作為に選ばれたのではない。これまで僕が全国各地でこなしてきた膨大な量のパターンマッチングをもとに、盛岡という素晴らしい街に照準が絞られ、この機会を捉えて公にした、ということなのだ。
SP会員の皆さんの長年のサポートに心から感謝する。恐らく今回の一件は、このプログラムから出た最大のインパクトのある出来事だと思う。
また、盛岡の皆さんに感謝したい。全国からの視線が降り注ぐ中で、しなやかに事態を受け止め、僕に感謝をしてくれて(そんな必要ないのに)、親切にしてくれて(特にも馬場さんはこの大反響を乗り切るべく僕を導いてくれた)、そして何より、こんな世界に、可能性に溢れた素晴らしい街として存在してくれていることに。
ニュースレターRidgelineにも、盛岡で出会った人々を紹介しているので、ぜひそちらもご一読願う。
では皆さん、この冬を元気に乗り切っていこう。季節も変わり始めて、春は疾風怒濤のごとくやってくる。
盛岡には冬しか泊まったことがないから、今度はこの夏に行ってみたい。岩手山は、登り甲斐のある山とみた。
- 52 Places to Go in 2023 - The New York Times電子版(英語)(外部リンク)
- 盛岡市特設ページ(外部リンク)
- クレイグ・モドさんニュースレターの掲載サイト(外部リンク)
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