希望王国岩手キャンパストーク(平成21年6月3日)

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ページ番号1000959  更新日 平成31年2月20日

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訪問学校:北里大学
開催場所:大船渡市

  • 訪問学校:北里大学
  • 実施日:平成21年6月3日(水曜)
  • 場所:北里大学海洋生命科学部

写真:キャンパストークの様子1

達増知事
皆さん、おはようございます。紹介をいただきました岩手県知事の達増拓也です。
今日の講義は、岩手県の取り組みをいろいろ紹介するのが1つの目的ですけれども、もう一つの目的は、私のほうが北里大学海洋生命科学部のことをいろいろ知りたいという、そういう目的もありまして、本当はもっと早くお邪魔したいと思っていたのですが、去年はいろいろ大きい地震があったりとか、平泉世界遺産登録延期の関係もあちこち大使館回りをしなければならなくなったりとか、予定外の予定がいっぱい入って、なかなか時間がとれなかったので、今回こちらに来ることができて非常に嬉しく思っています。このキャンパスに来たのは初めてでありまして、豊かな自然に包まれた学習、研究環境というのは本当にすばらしいと思います。
私は、科学技術に関心がありまして、例えば外務省で7年半ほど働いていたのですけれども、外務省にいたときには科学技術の外交というのを自分の専門にしたいなと思っていまして、アメリカ留学したときも科学技術の外交という講座をとったりとか、あとは帰ってきてからも国際科学教育室という部署が外務省にはあるのですけれども、そこで2国間、多国間の科学協力のアレンジの仕事をしたりとかしていました。外務省というのは、国、地域別の専門と、あと分野別、国際法、国際経済、安全保障、文化交流、そういういろんな専門があるのですけれども、地域は大体アメリカ関係をアメリカ留学もしていたので、分野としては国際科学協力というのをやりたいと思って、そういう部署を希望したら配属されたりしておりました。

写真:キャンパストークの様子2

国際科学協力室にいたときに思い出すのは、PICESという、北太平洋海洋科学機構というのがありまして、詳しくはPICESのホームページがありますから見ていただくと詳しいことがわかりますが、北太平洋海洋科学機構、北太平洋に面する国々が海洋科学の連携、協力をするということでつくった国際機関でありまして、日本のほか、アメリカ、カナダ、ロシア、あと中国、韓国がメンバーになっています。年次会合を毎年やっていて、私が国際科学協力室にいるときに、次は日本だと、年次総会は日本だという番になりました。それで、その直前に根室市で科学者だけの会合があって、それを成功させた根室市がぜひ国際機関の年次総会も根室にという誘致運動をやっていて、私はそれが本当にできるかどうかを見極めて、ある省庁からもっと便利な首都圏のどこか役所の研究所があるようなまちで開催しようという声もあったので、当時の役所でいうと水産庁のほかに文部省と科学技術庁、あと外務省の4省庁が共同でやっているやつだったのですけれども、最初は根室でやることに反対する役所もあったのですけれども、根室青年会議所の若い人たちが非常に熱心に誘致活動を行って、根室市民文化会館、新しいそういう会議場にふさわしい場所もできたばかりだったので、これは根室でやろうという方向に調整して、それで根室でPICESの年次総会をやり、さっき言った加盟国から海洋科学の科学者の皆さんが根室にいらして会議ということ、そういう仕事をしたりしたこともあります。
それは後日談があって、実際の総会は私が国際科学協力室を離れた後に、後任に引き継いだ後で根室の年次総会の本番があったのですけれども、それは1995年かな、北海道沖地震があって、根室も震度4だったか、結構大きい地震に遭いまして、年次総会の直前に文化ホールにひびが入ったりして、会場として使えなくなったりして、急遽根室市立図書館の閲覧室の本を全部外に出して、そこを会議場にするとか、物すごいどたばたで本番を迎えるという、そのときは私は担当していなかったから、後任にすべて迷惑を引き継いだ格好になったのですけれども、ただ根室の人たちのいろんな郷土芸能とか、踊ったり、太鼓をたたいたりとか、そういうので開会式やって、今までそういう地域に支えられた住民参加型の年次総会というのをPICESでやったことは全然なかったので、加盟国の政府代表の人たちも科学者の皆さんも大変喜んだり感銘を受けたりしておりまして、一応成功だったかなと思っております。
というわけで、私は科学をやっている皆さんにはすごい憧れを持っているのですけれども、話は変わりますけれども、「ジョジョの奇妙な冒険」という漫画知っている人いますか。いますね。あれの3代目ジョジョの承太郎という人が海洋生物学者という設定になっているのです。ちゃんと首を縦に振ってうなずいている人がいますが。私は、承太郎が非常に好きなので、海洋生物学者だということに非常に憧れているのですが、「ジョジョの奇妙な冒険」というのは、私が学生のころから連載がスタートして、もう二十数年続いている、今でも第7部のようなやつをやっているのですけれども、あれを書いた荒木飛呂彦という漫画家は仙台出身なのです。それで、この辺にも詳しくて、「ジョジョの奇妙な冒険」をかく前にジャンプに連載していたのが「バオー来訪者」という漫画なのですが、「バオー来訪者」って知っている人いますか。いるな。いる、いる。これは、大事な漫画でありまして、というのは三陸海岸が舞台になっているのです。三陸海岸を縦に走る鉄道から話は始まっていて、それが三陸沿岸にある秘密の研究所からどこかに最先端のバイオの研究材料にされた少年少女を運ぶというところから始まって、その列車から脱出して、戦いはまず三陸の海岸から戦いが始まりまして、近くの町、そして山の中で戦いが続いて、最後の決戦は鍾乳洞の中で行われるという、本当にこの辺が舞台になった漫画なのです。ですから、荒木飛呂彦さんを学園祭に読んだりすると来てくれるかもしれませんよ、そういう漫画かいていますし、3代目ジョジョ、海洋生物学者という設定にしているというのは。そもそも「バオー来訪者」、三陸海岸に秘密のそういうバイオ研究所があるという設定自体、北里大学、当時水産学部の存在を多分知っていて、これをモデルにしてかいたのではないかと私は推測しているのですけれども、そういうことをいろいろ妄想を広げながら今日ここにやってきた次第であります。
もうちょい妄想を広げますと、三陸というところは非常に奇跡のような地形で、そういう地域だと思っているのですけれども、昔は海の底でいろんなものが堆積して、非常に分厚い岩盤のそういう塊の層ができているわけです。それが北のほうはぐぐぐぐっと隆起して、北山崎とかそういう北部陸中海岸のああいう断崖絶壁型の国立公園、絶景になっている。そして、南側のほうは一たん浮上したやつが沈降して典型的なリアス式海岸になっている。そういうでっかい塊、「天空の城ラピュタ」の岩の塊のお城みたいなやつ、あるいは古代の超巨大戦艦みたいな、そういうイメージでもいいと思うのですけれども、ひょっとしたら空に飛んでいくのではないかぐらいのそういう塊が海の底から浮き上がってきて、先のほうが浮かんで、後ろ半分のほうが沈んでとかいってこういう地形をつくっているわけです。
海の底にあったときが長くて、久慈で最近恐竜の化石が発見されましたけれども、岩泉の茂師というあたりでは大分前から恐竜の化石が発見されています。また、石灰質が多いので鍾乳洞もたくさんあるのですけれども、石灰というのはもともと生き物でありますから、非常に生命力ある岩の塊だと思います。ですから、農業とか林業も非常によくて、内陸のほうになりますけれども、大迫のほうのブドウとか、あと江刺のリンゴ、そういったのはやっぱり石灰質の土壌というので非常にフルーツ関係の果樹も農業で盛んになっていて、全国的にも自慢できるような品質の果物がとれるようになっています。こっちのほうはマツタケですね、沿岸のほうではマツタケが採れます。これは、知っている人は知っていて、既に採りに行ったりしている人もいるのではないかと思いますけれども、釜石、大槌のほうまで行くとかなりあの辺マツタケが採れるようになっています。そういう本当に生命力を培う、そういう岩の塊でありますので、そこに雨が降って、海のほうに流れて、いろんな養分が海に流れ出しまして、三陸海岸というのは沿岸のあたりも非常に養殖に向いたすばらしい環境になっている。
三陸というのを無理やり英語にして、トリプルランドと私はひそかに呼んでいるのですけれども、海と山と町がそういう三位一体で無限の可能性、空にも飛んでいくのではないかというくらいの可能性を持つトリプルランド、三陸、山のほうも含めたそういう岩手の沿岸振興というものを大きな夢を持って目指していきたいと思っております。
さて、1、はじめには以上でありまして、2、私の県政運営の基本方針。去年の初めに、いわて希望創造プランという私の任期4年に対応する4カ年計画をつくっております。いわて希望創造プラン。そのいわて希望創造プランに2大戦略というのがあります。1つは、新地域主義戦略という戦略、もう一つは岩手ソフトパワー戦略という戦略であります。
新地域主義戦略といいますのは、地域振興の一種なのですけれども、2大戦略の1つは新地域主義戦略で、2つ目が岩手ソフトパワー戦略と。地域というのでもいろいろあるわけです。都道府県も地域ですし、市町村も地域ですし。地域としておりますのは、そういう地方自治法上の地域ではなくて、法律にない地域、そこに注目しよう、そういうところに力を入れていこうということで新地域主義戦略と名づけております。そういう地方自治法上、位置づけられていない地域にどういうものがあるかというと、これが2種類あるのですけれども、1つは広域圏、例えば沿岸広域圏という、大船渡市とかいう1つの市にとどまらないで陸前高田市からずっと宮古、田野畑、そっちのほうまで行くようなそういう広域圏、そういう大きなエリアの中で産業振興とか地域振興とかに取り組んでいこうと、市町村は市町村で既にもういろいろやっております。また、県全体でやっていくということについては、物すごい蓄積があります。ただ新しいフロンティアとして今岩手を4つに分けて、「三国志」の天下三分の計を文字って……「レッドクリフ」見た人いますか。何人かいますね。天下三分の計を文字って、岩手四分の計と言っているのですが、県北、沿岸、県央、県南、こういう4つの広域に分けて、それぞれが1つの独立した県であるかのごとく地域振興をやっていく。もともと岩手というのは四国4県に匹敵する面積がありますので、そういう岩手を大きく一つのくくりだけでやっていくと、沿岸は沿岸なりの海のないところとは違う振興策がいろいろあるので、4つに分けて広域圏ごとにいろいろ取り組んでいこうということをやっています。
新地域主義戦略の新地域のもう一つは、コミュニティーなのです。これは、町内会とか、自治会とか、そういうもう市町村よりもちっちゃい、この辺でいうと三陸町と、昔町だったのですけれども、その中にまた吉浜、越喜来、綾里とかあるわけでありまして、そういう今もう市町村合併が進んで、市町村というのもかなり大きいサイズになってきているのですが、その市町村の中のコミュニティー、これは江戸時代の旧村だったりもします。吉浜とか越喜来とかそうですよね。そういう伝統文化に根差した単位。これ国によっては、法律上そういうコミュニティーにちゃんと議会を設けたりとか、正式な予算がついたりとか、そうやっている国もありますが、日本では市町村と都道府県は議会があって予算がつくのですけれども、コミュニティーにはそういう議会、制度もなければ予算もない、そういう状態なのですけれども、ただ生活の実態や、あと仕事の実態から考えると、かなりコミュニティー単位でまとまってやっていることが多いわけでありまして、県としてもそういったところに目を配り支援をしていく、そういうことをも新しい地域主義の戦略としてやっております。
2大戦略の2つ目、岩手ソフトパワー戦略、このソフトパワーというのは、オバマ大統領やその仲間たちもよく使うのですけれども、軍事力、さらには経済力、そういう軍事の力、お金の力以外の文化の力とか、あとは信頼とか、そういう道義の力ですね、道義とか道徳の力、文化の力とか道徳の力で外国との関係をうまくやっていこうという、もともとは国際政治の分野で使われていた言葉なのですが、これが地方自治でも大変大事だなと思っております。岩手の振興を考えていくときに、物質的な豊かさだけではなくて、精神的な豊かさも大事にしていかなければならない。たくさん工場を誘致して、そこで働いてお金を稼いでいける、そういう目に見える所得の向上とか、あとは就職率、雇用のそういう数字をアップさせていくこと、それも大事ではあるのですけれども、それだけではないだろうと。また、逆に21世紀、情報化の時代、またグローバル化の時代は、単に物を効率的に生産できるというだけではなくて、そこに何か文化の要素とか、あとは基盤とか、信頼とか、そういう論理的要素がないと、かえって物質的な豊かさも得られない。
このソフトパワー戦略の1つのシンボルにしているのが平泉であります。去年ユネスコ世界遺産に登録される見込みだったのですけれども、ユネスコの世界遺産会議のほうでちょっとここはこうしたほうがいいよとか、こうしたほうがいいという注文がついて、申請書出し直せということになり、登録延期となったのですが、今文化庁と県と平泉関係市町村が一緒になって申請書を書き直す作業をしております。大体こういうふうに書けとユネスコ側から言われていますので、書きかえて来年には出す予定でありまして、そうするとその後またいろいろ審査を受けて、再来年のユネスコの世界遺産会議では平泉がユネスコ世界遺産として登録される、そういう新しい見込みであります。
この平泉の文化というのは、中尊寺金色堂が国宝に指定されていたり、その仏像、お経がやはり国宝に指定されていたり、文化財としての芸術的価値が高いというのがあるわけですが、もう一つ平泉のすごいところは、平和の理念、環境の理念というのを900年前に東北地方のど真ん中にばんと形で実現していたというところであります。
中尊寺金色堂をつくるときに、奥州藤原氏初代藤原清衡公が中尊寺建立願文という願いの文、中尊寺金色堂をつくる趣旨の宣言文を書いて発表しているのですが、そこに書かれているのは、中尊寺金色堂は前九年合戦とか、後三年合戦とか、それに先立つ田村麻呂の蝦夷征伐とか、多くの人たちが犠牲になったのだけれども、東北の豪族や蝦夷たちはもちろん、攻めてきた中央や、あるいは関東から攻めてきた官軍の源氏の兵士とか、敵味方区別なくその死を悼み、命を大切にするのだということが書いてあるのです。さらに、人間だけではなくて、動物、植物、魚介類に至るまで、ちゃんと魚介類というのも書いてあるところがすごいのですけれども、およそ命あるものすべての命を大切にするのだという、そういう宣言が中尊寺金色堂建立のときになされているのです。敵味方かかわりなくその死を悼むというような、そういうモニュメントは世界にもなかなかないのです。フランスの凱旋門とか、アメリカのアーリントン国立墓地とか、自分たちの側の戦死者の死は悼みますけれども、敵だったほうの死は関係ないわけであります、大抵。それを敵味方関係なく死を悼む。さらにすごいのは、動植物とか魚介類に至るまでということで、もうおよそ命あるものすべてその命は大事だと宣言していまして、21世紀の世界が必要としている平和の理念や環境の理念というのは、実は平泉で宣言されていたし、ああいう金色堂を初め、毛越寺の浄土庭園、そういう……毛越寺の浄土庭園というのは、周囲の環境と調和した庭園として非常にユニークなのです。インドとか中国での浄土庭園というのは、池がプールみたいに真四角あるいは長方形で、人工の世界なのです、インドや中国の浄土世界のイメージは。それが日本に入ってきて、既にある山とか、既にある川とか、そういうのと調和するような自然な感じの浄土庭園になった、その最も初期のものの一つが毛越寺の浄土庭園でありまして、平泉話が長くなってしまいましたが、そういう21世紀の世界に通用するような理念や道徳、文化というものが岩手には昔からあり、それは今でもあるのだと。そういう人たちが生産している農林水産物ですよとか、そういう人たちが工場でつくっている製品ですということで、ソフトパワー的な付加価値をつけて、物質的な豊かさも高めながら、同時に精神的な豊かさも高め、そして物質、精神、両方の調和の中に真の豊かさを実現していこうというのが岩手ソフトパワー戦略であります。
こういう2大戦略のもとで、農林水産業とか、商工業とか、環境対策、防災、安全、医療、福祉、教育といった各分野の施策を推進するということにしております。
そこで、3番、三陸沿岸における海洋産業の振興ということでありますけれども、三陸沿岸は親潮と黒潮が交錯する世界有数の漁場であります。海の持つ多様な資源を有しておりまして、未知の海底資源、海中資源の可能性も最近指摘されています。そして、岩手の沿岸圏域、三陸沿岸には、ここ北里大学海洋生命科学部があるほか、大槌に東京大学海洋研究所附属国際沿岸海洋研究センターがあり、そして釜石市には岩手県の水産技術センターがありまして、そういう海洋に関する研究機関、そして研究者が集積しています。今回移動県庁という企画でこちらに来ているのですけれども、去年から移動県庁を始めて、去年は釜石の岩手県水産技術センターのほうに北里大学の先生、東大海洋研の先生方に集まってもらって意見交換をしまして、こういう三陸沿岸が持っている海の資源や海洋関連研究機関の集積を生かした海洋産業の振興の可能性ということを目指そうという話になっております。
昨年度、三陸沖の石油、天然ガスなどの新たな海洋資源の可能性を検討する研究活動や、北里大学を中心とする海洋バイオテクノロジー関連の研究支援を県のほうでも展開しております。
今年度でありますが、海洋産業振興のための県の組織体制を強化して、海洋産業振興指針というものを今年度策定することにしました。海洋産業振興指針ですね。これは、水産資源や海洋バイオテクノロジーや海底海中資源、海洋エネルギー、また海洋レクリエーションなどなど、いろんな分野別の施策を一つにまとめて、総合的に海洋産業振興を図ろうというものであります。この指針を策定していくに当たり、北里大学の先生の助言もいただいてまいりましたし、また三陸沿岸の海洋研究プロジェクト導入を図る上において、北里大学が果たす役割に大きく期待をしているところであります。
4番、グローカルポリシーのすすめという見出しを書いております。グローカルといいますのは、グローカルという言葉、聞いたことある人いますか。これは、国際関係論の世界で語られ始めたのですが、地方自治の分野ではやっている言葉であります。グローバル、地球規模、グローバルという言葉と、ローカル、地域というのを合体させた言葉がグローカルという言葉であります。シンク・グローバリー・アクト・ローカリーという言葉があるのですけれども、それ聞いたことある人いますか、シンク・グローバリー・アクト・ローカリーという。これは、国際関係の分野で出て、地方自治の分野で流行っている言葉なのですけれども、地球規模で考えながら地域において活動するという意味であります。私が外務省で働いたことがあるということで岩手においてこれを強調しているわけではございませんで、今のグローバル化の時代、これはどの都道府県においても必要な感覚、発想だと思います。世界全体がどうなっているのか。そして、そこからいろんな影響が国をすっ飛ばして県に襲いかかってくるわけです。
本当に去年から今年にかけてはそういうグローバル化のいろんな衝撃が岩手を直撃することが多くて、去年の夏の原油高、あれで漁師の皆さん、水産業従事者の皆さんはかなり大変でありました。原油価格の高騰があって、それと連動して穀物価格の高騰というのがあって、沿岸圏域でも牛を飼っている人たくさんいますけれども、そういう牛のえさが高騰しまして、スーパーなどでの牛の肉の値段や牛乳の値段はそんな急に上げるわけにはいかないので、畜産、酪農関係の人たちも大変でありました。そして、その後にサブプライムローン問題に端を発する世界金融危機、あれで内陸のほうの関東自動車工業とか東芝、富士通、ソニーとか、そういった工場が雇いどめとか、あとは整理統廃合とか、そういうことになってしまっていますし、経済的なショックに加えて、今年に入ってからは4月にはミサイルが岩手の上空を、テポドン2が通過したりとか、そして4月後半から新型インフルエンザが日本のほうにも来て、こっちに来るかもしれない。幸い岩手では患者は発見されておりませんで、北海道、東北でまだ患者が発見されていないのですよね。そこはまだ不幸中の幸いなのですけれども、いずれそういうグローバル化の影響というものが地方を直撃する時代になっています。被害者であってばかりではだめなので、ということは地方から直接世界に働きかけることもできる、世界に乗り出すこともできる、そういう時代でもあります。インターネットも発達していまして、情報発信も岩手から世界に直接することができます。
私は、知事になってから中国とか、あと東南アジアですね、そっちのほうに岩手の物産をどんどん売り込もうと思って、中国、大連にナマコの乾燥したやつを売り込むとか、あとはシンガポール行って岩手の米を買ってもらうとか、マレーシアのほうには岩手のサンマとかイサダとか、そういう日本人が普通に……イサダは普通に食べていないけれども、そういうのを東南アジアの富裕層にも食べてもらうというような働きかけをしたりしております。
グローカル化というのは、ローカルな地域にとって危機であると同時に希望でもある、そういう発想の転換をして県政を推進していかなければならないというふうに思っております。
おわりにのほうに入っていきますけれども、八木健一郎君という、この北里大学、当時水産学部を卒業して、この大船渡市に残って、三陸とれたて市場という、この辺でとれた海産物をインターネットで都会のほうに売るという、そういう仕事を軌道に乗せている若い人がいます。2005年デジタルコンテストin宮古というところで、ホームページ部門の最優秀賞をそのサイトはとりました。また、国の政府の内閣府でやっている地方の元気再生事業、これに三陸の食卓をおすそわけ実行委員会というのが採択されまして、八木健一郎君が中心になってやっている、これはさっきのインターネット海産物販売に魚を養殖している動画をインターネットで見ることができるとか、これから食べようとしているものがどういうふうに水揚げされたり、あるいは育てられたりしているのかというのをインターネット動画で見ることができるという新企画なのですけれども、それが政府のそういう補助事業に認められて、政府から補助金ももらってやったりしております。岩手でその事業に選ばれたのは4つ、そう簡単に選ばれないものなのですけれども、政府からも評価されて、また地元の人たちの協力も得て、陸前高田のほうの醤油屋さんが刺身のための醤油を開発したからこれをセットで売ってくれということで、醤油とセットで売るとか、そういう地域産業とも連携して軌道に乗っている仕事を花開かせています。まさに非常にローカルな地域から出発して、全国に通用する、さらには世界にも通用するような仕事の例だと思って、県としてもそれを応援し、またこれからはこうだということを県民にも広く伝えて、いろんな新しいそういうビジネスに挑戦する若い人が出てくるように期待しているところです。
内陸のほうでもいろんなおもしろい例があって、花巻でお米をインターネット販売するので成功している、惣兵衛という会社ですが、私と同じ年の若い女の人がやっているのですけれども、おじいさんの名前を会社の名前にして、惣兵衛のお米ということでインターネット販売して、すごい成功した人がいます。その人は、そういう女性起業家のノウハウを地域のほかの若い女性にも伝えようということで、女性起業家セミナーみたいなことを自分で会社としてやってくれていて、どんどん、じゃ、私もそういうのやってみようかしらという人がそこに集まったりしています。
あと、最近若い人で成功した例でおもしろいのは、国道4号線沿いにドンドンダウンという古着屋さんがどんどんできているのを見たことある人いるかもしれません。ドンドンダウンというヘイプという会社がやっているのですけれども、あれは岩手の人がやっているのです。私最初見たときは、中央資本が進出してきているのかなと思って、あれは毎週水曜日になると古着の値段をダウンさせていって、とにかくゼロに近いくらいまで最後はダウンするのだけれども、いつ買うかという感じで買ってもらう、そういう新しい古着販売のビジネスモデルを開発して、成功している人がいます。
おわりにということで、地域貢献的な未来にそういう成功を皆さんにやっていただけると岩手としては非常に助かるのでありますけれども、ただもちろんそういういろんなビジネスだけが皆さんの道ではないわけでありまして、研究者としてやっていく、あるいは公務員としてやっていく、北里大学水産学部から水産の専門家として岩手県で働いてくれている人たちもいます。また、大きな民間企業の中で研究者的に、あるいは開発部門で活躍するということも非常に大事だと思います。
いずれローカルというのを突き詰めれば自分自身ということであります。移動県庁という今回の企画なのですけれども、これは今現在であればここに岩手県庁があるのだよという、そういう設定でやっているのです。きのうは川井村とか田野畑村とか回って歩いたのですけれども、移動県庁の企画が行われているところが、その瞬間はそこが岩手県庁だと、岩手の中心である。私は、この沿岸振興というのを考えるときに、特に沿岸の県民の皆さんに自分たちのいるところが中心なのだ、岩手の中心であるという意識はもちろん、世界の中心という、「世界の中心で、愛をさけぶ」という話がありましたけれども、自分のいるところが世界の中心という感覚を持ってほしいなと。岩手県民は、ともすれば非常に謙虚で引っ込み思案で遠慮深いところがあるのですけれども、それはそれでいい性質なのですが、やはりこれからは自分のいるところから何か世界に広がっていくようなことをそれぞれの場でやっていかないと大変な世の中なので、そういう感覚を岩手県民に持ってほしいと思っているのです。
皆さんの中には、県出身者、岩手出身の方もいるかと思いますけれども、また遠く離れたところからこちらに来ている人たちのほうが多いと聞いておりますが、自分の生まれ育ったところを離れてこういうところで学んでいるというのは、既に自分というのが中心になって、自分のいるところが世界の中心という、そういう感覚で既に動き出していることなのだと思います。そういう皆さんの世界の中心というのを岩手に置き続けてもらえれば、岩手にとっては大変ありがたいことでありますけれども、でもそれは世界のどこにあってもいいわけです。外国に行って働いてもいいし、海洋生物関係では南極に行って働いているような人もいますよね。本当どこに行ってもいいのだと思います。そういう中で、人生の大事なある一定の時期をここ岩手の三陸沿岸で過ごしたということを一生の財産にしていただければなということを希望申し上げまして、私の講義を終わります。ありがとうございました。

司会
それでは、引き続き意見交換に移りたいと思います。ただいまのご講演について、ご意見あるいはご質問がある方は手を挙げて発言をしてください。せっかくの機会ですので、講演の内容に限らず、知事に聞いてみたいこと、あるいは話をしたいということ、あるいは移動県庁ですので、施政演説に対する批判でも結構だと思いますので、ぜひ積極的な……

達増知事
県議会みたいな感じ。

司会
質問ありませんか。だれでもいいです。何でも結構です。

質問者
本日は有意義な時間をつくっていただきましてありがとうございました。知事がもしここの沿岸地域の食べ物であったり、物であったりで、世界へ売り込もうとするのに一番売り込みたいものというのは、物であればどんなものですか。

達増知事
何でも可能性があるのではないかと思うのですけれども、最近関心あるのは中国や東南アジアのほうに売り込んでいくという中で、やっぱりナマコは中国側ですごいニーズが高いので、ナマコをたくさん生産して、特に乾燥させてさらに付加価値を高めて中国に出していけるといいなと思っています。岩手県は、大連市と連携協定を結んで人事交流とかいろんな協力をしているのですけれども、それの関係でおととし大連に行ったとき目撃したのですけれども、大連市内を走り回るバスにラッピング広告がついていて、そのラッピング広告にナマコカプセルという商品の写真が載っていまして、粉末にした乾燥ナマコを粉末にしてカプセルに入れたやつがいろいろ効くというふうに書いてあって、中国は友誼商店という、外貨を持っていって買い物ができる最新型のデパートは友誼商店という名前であちこちの市にあるのですが、その友誼商店の漢方薬コーナーに行ったら、かなりのスペースでナマココーナーがあって、干しナマコそのものが売られているのはもちろん、そういう粉末をカプセルにしたナマコもたくさん売られていました。その隣には、ウニカプセルというのも売られていて、ウニのどこをどう粉末にしたのかよくわからないのだけれども、それも体に効くということで売られていましたよね。ですから、岩手の海産物、水産物、どれも外国に持っていって恥ずかしくないものだと思うのですが、特にそういう付加価値が幾らでも高まっていきそうなやつなんかは特に関心があります。

質問者
ありがとうございました。

司会
ほかに何か。
はい、では、どうぞ。

質問者
普段の生活のことでお伺いしたいのですけれども、今回地方振興局が再編されましたよね。そうすると、我々でも、学生でも、国際学会に行ったりする場合、パスポートをとらなければならなくて、大船渡の地方振興局に行けば簡単にとれていたわけですが、今度再編になった場合は同じように気軽に大船渡でそういった手続して、パスポート更新、それから取得はできるのでしょうか。

達増知事
大船渡振興局長が来ていますので。

高橋大船渡振興局長
大船渡振興局長の高橋です。その点については、私のほうからお答え申し上げます。
パスポートについては、大船渡振興局でとれますけれども、今は、大船渡市、それから陸前高田市、住田町の各役場で手続ができるようになっておりますので、まず沿岸広域局のほうに、本局まで行かなければならないというようなことはございません。サービス水準も落ちません。

達増知事
4大広域圏で、今ある振興局再編していくに当たっては、企画部門は集約化するのですけれども、県民サービス部門についてはむしろいろんなそういうITなども使って、今以上に便利になるような方向で調整しております。どんどん外国に出ていただいて。

司会
ほかに何かありませんか。
ちょっと私から。すみません、今日のお話でも、IT、それからネットワークとかの話いっぱい出てきました。実を言いますと、我々の学生さんのかなりの人数が住んでいる崎浜という部落なのですけれども、そこはブロードバンドの回線がなされていません。だから、大学の中はもちろんありますけれども、自宅でネットにアクセスすることは非常に難しい状態であるのです。そういう、多分ここだけの話ではなくて、いろんなところにあって、要するにNTTの経済効率の関係で割が合わないから引かないなんていうところがあるだろうと思うのですけれども、情報のネットワークがないというのは基本的な構造がないということで、何とかならないものでしょうかということをちょっとお伺いしたいのですが。

達増知事
ITや地方の情報化を所管している部長もきょうは来ています。しっかり聞いたと思いますので、きちんと業者のほうに働きかけていきたいと思います。あとは、やっぱり北里大学海洋科学部の知名度を生かして、そういう人たちがいるところでまだ利用できないというのは、会社がおかしいのではないかみたいな、そういう働きかけもいいと思っています。
宮崎あおいさんがドコモのコマーシャルに出て、遠野の田舎のほうで写メを送るというシーンがテレビで放映されたのだけれども、そこはまだドコモが圏外だったのですね。だから、そこで写メ送れないじゃないかという抗議が殺到して、慌ててアンテナを立てたということがあるので、会社としてちょっと格好悪いみたいになるとまずいという、効率性プラスそういうところがあるから、その辺をちょっと私からもくすぐっていきたいと思います。

司会
よろしくお願いします。
ほかにもう一つ、はい、どうぞ。

質問者
恐らく沿岸の振興に関して一番重要なのは人材だと思うのです。最近いろいろ岩手県の中でも、本学からの卒業生が活躍しているのがあるのですけれども、例えば昨年度修士終えた学生が広田のほうに就職しましたし、学部の学生が地元の大きな漁協に就職したのですけれども、実際漁協もこれから自立してやっていかなければいけないこともあって、新しい人材を求めて、科学的な思考ができる人間を求めている。そのときにやはり考えなければいけないのは、そういった人材は沿岸部の経済格差という問題であり、なかなか就職することが難しい。そうなると、やはり経済的な手当てというのが必要になってくる。結局のところ奨学金制度等の具体的な手段を創設するというようなことを考えていいのではないか。沿岸部にターゲットを絞って手当してもいいのではないかと思います。

達増知事
医師不足関係でお医者さん、医学部の奨学金を充実というのは最近県のほうで制度をやったりしていたのですけれども、そういう広く沿岸振興人材のような枠組みで考えていくというのはあり得ることだと思いますので、検討させていただきたいと思います。

司会
終了予定時刻になりましたので、まだいろいろと質問あるかと思いますけれども、これでこの会を閉じたいと思います。
本日貴重な講演をいただきました知事に、最後に盛大な拍手を送りたいと思います。

達増知事
これで終わりではありませんので、またいつか来たいと思いますし、あるいは岩手のあちこちで私を見かけたときはぜひ声をおかけください。ありがとうございました。

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