開催報告|R8.1.14開催_官民・広域連携で取り組む人材育成推進シンポジウム
令和8年1月14日(水曜日)に開催した「官民・広域連携で取り組む人材育成推進シンポジウム
~組織力向上を支える“地域内人材循環モデル”~」の開催報告書を掲載いたします。
官民・広域連携で取り組む人材育成推進シンポジウム
~組織力向上を支える“地域内人材循環モデル”~
開催報告書

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開催日 令和8年1月14日(水) 14時~17時15分 会場 盛岡という星でBASE STATION(岩手県盛岡市) 主催 岩手県、公立大学法人岩手県立大学 |
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内容
1 趣旨説明 「人事政策に関する市町村実態調査結果(抜粋)」
2 基調講演 「はたらく、いきる、すこやかに 地域の人事部が起こす『人材循環』」
3パネルトーク(1) 「釜石市で取り組む地域ぐるみの人材育成」
3パネルトーク(2) 「こども・若者の豊かさに主眼を置いた取り組み事例」
3パネルトーク(3) 「人口が減るからこそ豊になる人づくり・町づくり・社会づくり~岩手県陸前高田市広田町からの挑戦~」
4トークセッション
5まとめ
おわりに
1 趣旨説明 「人事政策に関する市町村実態調査結果(抜粋)」
講師 役重 眞喜子 様 岩手県立大学総合政策学部准教授
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「人材育成は人事部門だけではできないです。 |
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採用をめぐる現状と課題
岩手県内33市町村を対象に実施された人事政策に関する実態調査結果(アンケート実施結果)を基に、地域自治体が直面している人材確保・人材育成の現状と課題が共有された。調査結果からは、採用試験における受験者数の減少および競争率の低下が年々進行しており、特に町村部や県北沿岸部においてその傾向が顕著であることが示された。これにより、個別自治体の問題としてではなく、県内全体に共通する構造的課題として捉える必要性があるとされた。

図 1 競争率の推移
こうした状況を受け、多くの自治体では民間企業との人材獲得競争を意識し、採用試験の前倒しや試験科目の削減など、採用の間口を広げる取り組みを進めてきた。しかし、これらの対応が採用辞退者の増加を招き、辞退率が緩やかに上昇しているという実態も今回明らかとなり、採用施策が新たな課題を生むという現状があること、特に町村部では、その影響が相対的に大きいことが示された。
インターンシップ・経験者採用の動向
また、新卒者とのミスマッチを回避する手段として、インターンシップに取り組む自治体が増加していることも報告された。実施内容については工夫が見られる一方で、受入部署の負担感や、必ずしも採用に結び付かないといった運用面の課題も多く挙げられており、インターンシップを単なる体験機会ではなく、育成・定着を見据えた仕組みとして再設計する必要性が示唆された。
経験者採用については、一般事務職において全体の約17%を占めるまでに拡大しているものの、受験者数が十分に確保できない点や、多様なキャリア背景を持つ人材をどのように育成し、組織に定着させるかという新たな課題が生じている。採用手法の多様化が進む一方で、育成・定着の仕組みが追い付いていない現状が、共通課題となっている。

図 2 経験者(中途)採用の状況
さらに、人材確保や人材育成に関する課題感が、必ずしも庁内全体で共有されていないこと、課題認識そのものが組織内で分断されていることが問題点として示された。人材育成については、職員のキャリアデザイン支援や複線型人事制度、人材定着施策などに「関心はあるが、導入検討には至っていない」自治体が多く、その背景としてノウハウ不足やマンパワー不足、日常業務の多忙さが挙げられた。
人材育成をめぐる根本的な問題意識
これらの状況を総合的に踏まえ、より根本的な課題として、自治体が人材育成に十分なリソースを配分してこなかったことが、現在の課題に影響している可能性が示された。人材育成は人事担当部門だけで完結するものではなく、トップの明確な意思と組織全体での取り組みが不可欠であること、またトップダウンで進めなければ実効性を持ち得ないが、これが出来てこなかったことにより、経験を積んだ職員の配置がなされていないこと、研修の受講に関しても不十分な点が見えてきていることがあるとし、現状でも人事部門の奮闘は見えるとしつつも、「ここにメスを入れなければ先の展開は見えない」との強い問題意識が共有された。
このシンポジウムで目指すこと
最後に、このシンポジウムの目的として、次の二点が挙げられた。
一点目は現在地の共有。「人材育成は人事部門だけではできない。トップの意思、それから庁内連携というのが非常に大事」であること。
二点目はマインドセットの変革の必要性。「人の奪い合いではなくて育て合いにマインドを変えていく必要」があること。
官民連携や広域連携による人材育成は、これまでのように特別な手法として捉えるのではなく、人材育成を進める上での前提条件として捉える必要があること、単独自治体では対応が難しい課題に対して、越境やシェアを前提とした新たな人材育成モデルを検討する必要性があることとしつつ、この会に対して、「『つながりと足掛かり』ということで、今日この場をリソース結集の第一歩ととらえて、新しい取組に踏み出していただきたい」との期待が込められていることを会場全体で共有する趣旨説明となった。
2 基調講演
「はたらく、いきる、すこやかに 地域の人事部が起こす『人材循環』」
講師 横山 暁一 様 NPO法人MEGURU代表理事/合同会社en.to代表社員
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「塩尻の人事部の取組は、塩尻の周辺も含めた地域を “ひとつの組織” ととらえて、地域における人の循環を作っていこうというのがコンセプトです。」 |
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地域を「一つの組織」と捉える人材循環の考え方
基調講演では、長野県塩尻市をフィールドに展開されている「地域の人事部」の実践事例を通じて、地域を一つの組織として捉え、人材を獲得・育成・循環させていくための考え方と具体的な方法論が示された。横山氏は、「地域の人事部」とは単なる人材支援事業ではなく、企業、行政、教育機関、金融機関などが連携し、地域全体で人に関わる機能を担う仕組みであると説明し、「地域における人の循環をつくること」が中核的なコンセプトであるとした。

図 3 塩尻の人事部のコンセプト
背景として、塩尻市においても人口減少が不可避であり、今から18年後、新たに労働市場に出てくる世代が、現在に比して4割減少する見込みであることや、市内事業者の約95%を占める中小企業では、経営課題の上位が既に「採用」と「育成」という、人材に関わる課題でありながら、既存の人材サービスを十分に活用できていない実態があることが示された。さらに、地域の子どもたちについて見れば、成長とともに“地域に住み続けたい”と考える割合が大きく低下しており、子供たち自身が、この地域で働く・生きるという選択肢を持ちづらい状況になっていた。こうした課題は、産業政策、教育、まちづくりなどがそれぞれ単一領域で解決することはできず、複数領域が連動してこそ人材の定着につながるとの認識が示された。
「塩尻の人事部」―コンソーシアムによる人材サービス
横山氏は、自身の大手人材会社勤務の経験を踏まえ、民間企業単独では採算性や投資判断の観点から地域の人材課題に継続的に向き合うことが難しいこと、行政が担うとしても、人や予算の制約から長期的に継続することは困難であるとした。その上で、特定の主体が担うのではなく、各組織が持つ人材、予算、ネットワークといったリソースを持ち寄り、コンソーシアムとして人材施策を構築する必要性が語られた。
塩尻の人事部では、こうした考え方の下、(1)個人を支援する取り組み、(2)組織を支援する取り組み、(3)地域全体で人と組織を支える連携体制づくり、という三つの領域で事業を展開している。個人支援では、中高生向けキャリア教育を地域企業と連携して実施し、学校現場の負担軽減と学びの質向上を同時に図っている点が紹介された。特に、地域の社会人と生徒が対話する取り組みでは、親(縦の関係)や友達(横の関係)ではない、地域の大人という「斜めの関係」を意図的に創出することで、生徒にとってのロールモデル発見だけでなく、協力する大人にとっても、内省や傾聴力の向上といった学びの機会にもつながっている。
また、大学生向けの長期インターンシップや、社会人の副業・越境プログラムを通じて、地域外の人材を積極的に受け入れている。地元企業の社員ではないが、関係人口ならぬ関係社員として企業や地域の支援に関与する取組があることなども紹介された。こうした取り組みは、地域課題の解決だけでなく、参加者自身の自己実現やキャリア形成の場として機能しており、「地域のため」ではなく「自分自身の成長のため」に関わる人材が、結果として地域に継続的な価値をもたらす構造が示された。
組織支援の面では、中小企業が単独では持ちにくい人事・育成の機能を、地域として補完する考え方が共有された。採用から育成、制度づくりまでを一体で支援するほか、ストーリー型求人メディアの提供や合同研修の実施により、条件面だけではない、共感を軸とした人材マッチングや、地域横断的な人材育成の場を創出している。企業側も単なる支援の受け手ではなく、「実験台」「共創パートナー」として参画し、自ら必要な人材サービスを地域内でつくり上げていく姿勢が重要であることが示された。

図 4 塩尻の人事部コンソーシアム
すべての取り組みは一つにつながっている
横山氏は、こうした施策はすべて連動しているとし、学生期から地域と関わり、育成された人材が組織で活躍し、その組織が魅力的な事業を生むことで、さらに人が集まる、という循環構造を目指しているとした。いずれも、循環の中心にあるのは、企業や行政ではなく、まさに「一人ひとりの個人」であること、個人が自分らしく働き、成長できることが取組の起点であり、取組結果の価値であることが示された。
行政との連携と人材育成
行政機関と連携した取り組みについても紹介された。特に、塩尻市の総合計画に人的資本経営の推進を明記していること、これが人材育成施策に反映されていることが紹介され、行政職員を地域にとって重要な「人的資本」と捉えて取り組まれていることが説明された。例えば内定者研修や民間と合同で行う新入職員研修、あるいは地域企業と連携した越境研修などを通じて、職員自身が地域課題の現場に入り、仮説検証から小さな実装までを経験する研修も実施されてきた。また、対象職員が受けた研修の効果を職場に還元することまで考えられており、そのためには、彼らの上司への働きかけや、マネジメントの支援についても不可欠である、といった指摘がなされた。

図 5 塩尻市と連携した人材育成
人材循環の最終像
最後に横山氏は、地域の人事部の次のフェーズとして、「会社への就職じゃなくて、この地域で働きたいという考え方」「1つの会社を超えて育て合ったり、お互いに人材をシェアする育成や転職」「社内評価ではなく、いかに社会にインパクトを与えるかという人事評価」など、本当に地域を1つの組織として捉えた人材づくりをやっていきたいと抱負を述べ、「一人一人の価値を最大限引き出し、企業価値向上に努める『人的資本経営』」を地域ぐるみで成し遂げたいこと、さらには、地域と都市、地域と地域を繋ぐような人材の還流作りにも挑戦していきたいと展望を示して、発表を締めくくった。


図 6 塩尻市と連携して実施した人材育成(越境学習)

図 7 目指すは地域単位の人的資本経営
3パネルトーク(1)
「釜石市で取り組む地域ぐるみの人材育成」
講師 戸塚 絵梨子 様 株式会社パソナ東北創生 代表取締役
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「採用だけではなくて、育成を含めて人材獲得ですし、環境整備も全部含めての人材獲得だと思っています。」 |
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人材獲得を「育成・環境整備まで含めて捉える」
戸塚氏は、釜石市と連携して実施されている「地域ぐるみの人材育成」の実践事例として、企業・行政・地域が連動した人材育成の考え方と、試行錯誤を重ねてきた具体的な研修設計のプロセスが共有された。人材育成や人材確保の問題を、個々の企業や行政施策に限定された課題としてではなく、地域全体に影響を及ぼし合う構造的課題として捉える必要性を強調した。
釜石市では“圧倒的”人口減少・人材不足が進行する中で、地域企業の多くが採用や人材育成を最重要の経営課題として抱えている一方、企業単体での採用・育成や、行政単体での移住施策だけでは限界があるという認識が共有されていた。こうした背景から、人材獲得を「採用」に限定せず、「育成」や「環境整備」まで含めたものとして捉え直し、企業・個人・地域が相互に関係し合う前提で、地域ぐるみの戦略を描くべきであるという問題意識が示された。

図 8 人材獲得の考え方
人材獲得の具体像として、必ずしも移住に限らず、地域居住のように関係人口で考えることもできること、また人材育成についても、研修やセミナーだけでなく、市民活動や地域イベントといった多様な経験が寄与する点が挙げられた。環境整備については、待遇や福利厚生といった企業内施策に加え、自治体としてのビジョンや政策の発信、就業支援や経営支援のインフラ整備などが重要であると説明された。
釜石市との「地域ぐるみ人材育成」事業の始動
こうした考え方のもと、釜石市とは令和4年度から「地域ぐるみの人材育成」に本格的に取り組んでいる。初年度は、「ワクワクする働き方セミナー」と題し、若手社会人が自分自身のありたい姿や将来像を言語化するとともに、釜石の未来について意見を交わす対話型の研修を実施した。この背景には、複数の企業から寄せられた「定着や育成に課題がある」「地域内の若手同士がつながる機会が必要ではないか」という声があり、企業の枠を越えた“地域内同期”の関係づくりを意識した設計がなされていた。
一方で、初年度の取組に対しては、企業側から「もう少し会社への還元を意識してほしい」という率直なフィードバックも寄せられた。これを受け、次年度以降は、個人の価値観整理に加えて、自社の理念やビジョン、事業理解を深める内容や、参加者同士が自社を紹介し合う企業見学などを組み込むことで、学びを職場につなげる工夫がなされた。さらには、中堅層、あるいは管理職層を対象とした研修の実施も試みられたが、派遣元企業にとっての主力人材であることからなかなか参加が進まないという現実的な課題も明らかになった。この点については、上司や管理職を研修に直接参加させることに固執せず、若手が研修で行う課題整理や成果物づくりの過程に上司が関与する仕組みを導入した。例えば、展示物や仕事紹介資料の作成にあたって上司からのフィードバックを受けることや、報告会に上司が参加し、若手の変化や気づきを可視化する場を設けるなど、間接的な巻き込みを重ねてきた経過が共有された。

図 9 釜石市と取り組む地域ぐるみの研修
3年間の試行錯誤を通じ、各社において上司の理解は一定程度進んだが、それだけでは会社組織全体の変革につながりにくいという課題も見えてきた。そこで今年度は、若手が職場の課題を発見・整理し、具体的な改善行動に結びつける実践的な内容へと研修を再設計し、上司や管理者にはサポート役として課題解決プロセスに関与してもらう形を採用している。現段階では、「研修をやってよかったね、で終わらない取組になっている」といった企業側の評価も得られている。
現時点での成果と残された課題・方向性
現時点での取組の成果は、三点挙げられた。
第一に、若手人材が「何のために働くのか」「自分の思いをどのように会社の中で行動につなげるのか」といったキャリア意識を持ち、実際の行動に変化が見られ始めている点。
第二に、企業や行政の枠を越えた地域内同期のつながりが生まれ、交流そのものに価値を見出す声が上がっている点。
第三に、企業・行政が試行錯誤しながら「地域ぐるみで人を育てる」経験を積み重ねていること自体が、地域の人材戦略として資産を形成しつつある点が挙げられた。
一方、学びを生かすための職場環境や地域側の受け皿が十分に追いついていないこと、中堅層・管理職層の関与が引き続き課題であること、企業ごとの育成力や人材観にばらつきがあること、そして取組を継続的な仕組みとして定着させるための体制整備が急務であることが、課題として整理された。
今後も、地域の人材に対する育成ビジョンについて、行政、企業、商工団体のような支援機関とも共通認識を持ち、対話を重ね、地域全体で未来を担う人材育成に取り組んでいきたいとまとめられた。

図 10 課題・今後に向けての方向性
3パネルトーク(2)
「こども・若者の豊かさに主眼を置いた取り組み事例」
講師 早川輝 様 NPO法人みやっこベース 理事長
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「人材育成という言葉に少し違和感を感じていて、子供たち一人ひとりが主語となって、 |
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人材育成という言葉への違和感と基本的な考え方
本パートでは、「こども・若者の豊かさ」に主眼を置いた地域づくりの実践として、宮古市における小・中・高校生を中心とした教育的取組が紹介された。早川氏は、人材育成という言葉そのものに対する違和感を起点に、特定の目的に沿って「育てる」発想ではなく、子ども一人ひとりが主語となり、自ら育っていくための場や環境を地域の中につくることの重要性を強調した。

図 11 みやっこベースの理念
みやっこベースでは、「宮古市で生まれ育つすべての子ども・若者の人生が豊かであること」を理念に掲げ、その「豊かさ」を「望む未来を自ら創ることができる状態」と定義している。地方都市であるがゆえに、進学、仕事、体験の機会などに制約が生じやすいが、生まれ育った環境によって本来持ち得た選択肢が狭められてしまう状況は望ましいものではないこと。むしろ、宮古で育ったこと自体が、その後の人生にとってプラスになるという状態をいかに創り出すかということが、取組全体の根底にある考え方だとした。
「宮古でも、宮古だからこそできる教育」
みやっこベースでは、「教育事業」「キャリア支援・企業支援」「コミュニティ・まちづくり」の三つの領域を設定して活動している。
中でも教育事業においては、「宮古でもできる教育」の提供と、「宮古だから提供できる教育の機会を作っていくこと」の両立を重視し、全国的に必要とされている学びの機会を地域内でも確保しつつ、宮古の自然、人、企業といった地域資源を生かした体験機会を提供している。
具体的な取組として、子どもたちが安心して集い、交流できる居場所としてのフリースペースやコミュニティスペースの運営、高校に出向いての居場所づくり・居場所提供などの活動をしているとのこと。また、2016年から継続して実施されている「みやっこタウン」では、地域企業の協力を得ながら、子どもたちが仕事や市民活動を疑似体験し、地域の仕組みを学ぶ機会を創出している。さらに、疑似体験にとどまらず、海・山・川といった自然環境を活用した自然体験や、水産業や建設業など実際の現場を訪れる「おしごと探検隊」を通じ、五感を使って仕事や地域を理解する機会を提供している。

図 12 地域教育事業の例(みやっこタウン)
高校生の地域参画と主体的活動
高校生に対しては、ボランティア活動やまちづくり活動への参加を促すためのプラットフォームを整備し、LINEを活用した情報提供やマッチング、活動のコーディネートを行っている。さらに、高校生自身が企画・運営に関わる取組として、地域コミュニティFMと連携したラジオ番組の制作など、主体的に地域に関わる実践の場が設けられている。これらの取組は、「体験する」「楽しむ」「誰かのためにやってみる」といった活動を通じて、好奇心、挑戦心、自己肯定感、自己効力感を育む意図で構成されてきたものとのこと。
育ちのプロセスと「ふるさと意識」
早川氏は、将来的な地域の担い手を育てるという視点だけでなく、子どもたちが「今」を充実して生きること自体が何より大事なことと考えている。小学生、中学生、高校生の時期に、自分が大切にされ、多様な経験ができたという実感を持つ中で、その後の人生を生きる上で必要な力も育まれること、その結果として、18歳前後の節目に「宮古で生まれ育って良かった」と思える状態になることを願っているとのこと。
設立当初の事例として紹介された高校生主体の活動では、復興に関わりたいという高校生の声をきっかけに、高校生サミットを定期的に開催し、地域に向けたプレゼンや企画を通じて世代を超えた関係性が築かれてきた。こうした経験を経た高校生の中から、宮古へのUターンや、市役所職員、NPOスタッフとして地域に関わり続ける人材が生まれていることが紹介され、若い頃の成功体験や地域との深い関わりが、愛着形成につながる一因であることが示唆された。
「ふるさと」とは何か
最後に、「ふるさと」とは何かという問いを共有。子ども時代に全力で取り組み、何かを達成した経験が積み重なった場所だから「ふるさと」になること、つまり地域の中で創造的な行為を行い、それが誰かの役に立ったという実感を得られることが、後に地域を自分ごととして捉える基盤になることを見据え、育つ環境への投資に自治体や関係機関と今後も取り組んでいきたい、と締めくくられた。

図 13 人が育つ場をつくる

図 14 当時の高校生に起こっていたこと
3パネルトーク(3)
「人口が減るからこそ豊になる人づくり・町づくり・社会づくり
~岩手県陸前高田市広田町からの挑戦~」
講師 三井 俊介 様 認定NPO法人SET理事長
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「人口減少は別に嘆くものでもなくて、それだからこそ豊かになる人づくり、まちづくり、社会づくりを行うことを掲げています。」 |
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SETの立ち上げと基本的な思想
「人口が減るからこそ、より豊かになる人づくり・町づくり・社会づくり」をテーマに、陸前高田市広田町を拠点として展開されてきた認定NPO法人SETの実践が紹介された。三井氏は、人口減少を悲観的に捉えるのではなく、むしろ地域の可能性を再構築する契機と捉え、課題が先鋭化する地域からこそ新しい社会モデルを生み出せるという立場から、活動の思想と具体的成果を共有した。
SETは、東日本大震災発災の2日後に設立され、当初は災害ボランティアとして活動を開始し、その後「復興のまちづくり」へと活動領域を拡張してきた団体である。一人ひとりの“やりたい”を“できた”に変えることで、日本の未来にグッドなチェンジが起こる社会を作るというミッションを掲げ、外から人を呼び込み、地元住民と協働する交流型の人材育成・地域づくりを継続してきた。
交流を起点とした人材育成・地域づくりの実践
SETの活動の核は、交流を起点として人と地域の双方をエンパワーメントする点にある。大学生世代などの若者を地域に招き、観光ではなく町づくりの一員として地域に関わってもらうことで、外から来た人は自己肯定感や主体性を高め、地元住民は地域への誇りや希望を取り戻していく。その結果として、地域内外で町のために何かをやってみようと行動する人材が生まれていく循環を生み出している。
これまでに、岩手県内の中高生約1,300名への伴走支援、町づくりプログラムに参加した若者約1,500名、ホームステイ型修学旅行で約17,000名の受け入れ、自治体職員向け滞在型研修への約70名の参加、移住者80名以上(うち約30名が定着)が生み出された、といった実績を上げているとのこと。
加えて、事後調査によれば、参加した若者の自己肯定感や地域参画意欲、Well-being、心の健康指標が向上していること、SETの活動に関わる地域住民の幸福度やソーシャルキャピタル(社会関係資本)の測定指標も高い水準にあるとの結果が提示された。
「町のために動く人」が生まれない構造への問題意識
三井氏は、こうした交流型の取組に着目した背景として、「結局、地域課題の解決は、『誰がやるのか』という問題に行き着く」と指摘。人口減少や産業衰退といった課題を前に、多くの地域では、「一人ではできない」、あるいは「大き過ぎてうまくいかない」と感じてしまうことで放置され、やがて諦めが共有されていくに至り、高齢者が若者に「この町はもうだめだから外に出た方がいい」と語り、人が減り、仕事が減り、さらに行動する人が減る、という負の循環が生まれてしまう構造があるとの認識が提示された。
SETでは、この構造に対し、「一緒にやる人をつくること」を最初の打ち手としてきた。専門性がなくても、町の中で小さく何かやりたいと思ったことを一緒にやることで、希望が生まれ、次の活動につながっていくこと。そこに外からの人や既存住民の参加もあり、結果として移住や起業、新たな仕事が生まれ、活動の輪が拡大していくという好循環が形成されてきた。

図 15 活動初期の課題認識

図 16 SETの交流事業の価値について
交流事業においては、一般的な研修のように課題抽出や議論に終始するのではなく、実際に地域に入り込み、住民との日常的な関わりや基幹産業への参加を通じて関係性を築くことを重視している点が特徴として挙げられた。信頼やつながりを「耕す」プロセスそのものが、地域を好きになり、主体的に関わる人材を生み出す土壌になり、ソーシャルキャピタルを築くことになるという考え方が示された。
自治体職員向け研修への取組
2019年以降においては、自治体職員向けの滞在型研修を提供している。これには、今後の人口減少社会において、“外からの人を受け入れる力”を自治体が持つことが、生存戦略として不可欠であるという問題意識が背景にある。高度経済成長期以降、地域は「人が出ていく」経験はしてきたが、「人が戻ってくる」「外から人を迎え入れる」経験は乏しく、受け入れのノウハウを持ち合わせていないのが現状であるとした。
地方では、優秀な人材の就職先が自治体だという実情を踏まえ、岩手の自治体の若手・中堅職員が外からの人材の受け入れ方を学んでいくことは、長い目で見て、「面白いことを岩手で起こしていく上で非常に重要な打ち手になる」と提起。研修においては、事前のオンライン研修、3~4泊の現地研修、その後の継続的なフォローアップを組み合わせて、一人ひとりから始まる町づくりを体験することとし、チームで活動を進めることや、自分の思いをしっかり企画に載せることなどが目指す成果とする設計がなされている。
アンケートによる研修の効果測定では、ワークエンゲージメント、すなわち自己肯定感、幸せの4因子、シビックプライド、地域参画意識といった全ての指標で向上が見られ、特に事前調査では「地域住民との協働」がゼロだったものが、行動していると回答する職員が増加するなど、行動変容が確認されたことが非常に大きな成果だったとした。参加者からは、住民の強い思いを感じられた、対話を通じた政策形成の重要性に気づいた、行動を起こすことや新しい発想・つながりが生まれた、といった声があったと紹介された。
学びのプロセスと育まれる力
SETの研修や活動の本質は、正解のない問いに向き合い、行動と内省を繰り返しながら、意味づけをすること、これを繰り返すことで自律的に前に進む力を育む点にある。これらは特定のスキルというよりも、「自分はできる」「自分は関われる」という基礎体力的なものを育てるものであるとし、地域づくりに必要な人材の土台であるという考えが示された。
三井氏からは最後に、「人は変われる」「人は町からできている」「一人ひとりが行動すれば、何かは確実に変わる」というSETの哲学が改めて共有され、行政職員を含め、地域の一人ひとりの行動が、新たな政策や人材育成の取組を生み出してきた実例を挙げながら、今後も多様な主体と連携し、岩手から新しい挑戦を広げていきたいと述べた。

図 17 SETが行ってきた職員研修…正解のない問いに向き合い、前に進む力を育む

4トークセッション
パネラーと会場とのトーク 一関市/釜石市/久慈市

1.釜石市 × 戸塚氏(パソナ東北創生)
【コメント・質問】(釜石市・宮本氏)
- 官民合同研修に取り組む中で、派遣する側の負担や、運営側の悩みも見えてきた。
- それでも最終的に「地域ぐるみで人材育成を行う必要性」に確信を持てた。
- 人材育成は正解や特効薬がない分野。失敗を許容し、学びながら続ける姿勢が重要。
- 今後も地域ぐるみで進めるにあたり、市町村に求める役割を聞きたい。
【回答】(戸塚氏)
- まず重要なのは、ビジョンを対話し続けること。
「地域にとってどんな人材が増えたらよいか」「それをまちづくりにどうつなげるか」を、
行政と民間で共有し、試行錯誤することが力になる。 - 人材育成は部署を横断するテーマ。庁内の関係部署を巻き込み、
対話を重ねながら進める姿勢そのものが支えになる。 - 民間単独の事業ではなく、「釜石市として取り組む」形で一緒に前に進められることが心強い。
- 財源についても、行政が単に予算を出す・出さないではなく、国の制度活用、地域おこし協力隊や
国の人材制度を含め、一緒に人も資金も調達するビジョンを達成していくよう協働したい。
2.久慈市 × 早川氏(みやっこベース)
【コメント】(久慈市・中村氏)
- 「地域に残ってほしい人材」ではなく、
地域資源を生かして子どもがどう育つかにフォーカスしていることが印象的。 - 人材の育成・確保を考えると、他地域との獲得競争に陥りがちだが、
日本全体で子どもを育てていく視点が重要だと再認識した。 - 久慈市では広域で、職場体験や企業から子どもたちへのプレゼンイベント(キャリアオーケストラ)を
実施しており、今年度からは保護者にも地域の企業を知ってもらう取組を始めている。 - 他地域の実践も参考にしながら、取組を発展させていきたい。
【コメント】(早川氏)
- 宮古での「みやっこタウン」は、複数の企業を一度に知り、自分で選べる点が強み。
- 保護者の理解が重要という視点は非常に大切。
- みやっこベースでは、未就学児の親子向け支援プログラムを始めていて、自然体験プログラムにも
取り組みたい。その一環で、職場のことを知っみるといった取り組みもやってみたい。
3.一関市 × 三井氏(認定NPO法人SET)
【コメント・質問】(一関市・千葉氏)
- 震災を契機に取組を始めたキーパーソンの皆さんの活躍と、
組織が地域のハブとなり機能している点が印象的だった。 - 「すべては交流から始まる」という考えは、まさにその通り。
- 一関市役所でも、職員の世代構成の歪みや世代間ギャップなどの課題はあるが、
SETの交流の取組のように、小さなところから行政も市民と一緒に始めること、
地域とのかかわりに取り組む必要性を強く感じた。 - 研修の前後で、行政職員にどのような変化が見られたか、運営側の視点で教えてほしい。
【回答】(三井氏)
- 「交流の価値」は、日本では十分に語られてこなかったが、
海外では人が集う場(広場)からまちづくりが始まるという考え方がある。交流の場を盛岡にもぜひ。 - 研修後の変化について、研修初日は、多くの職員が受け身で発言が少ない状態からスタートする。
- しかし数日後には、
- 自分から発言する
- 目線が上がる、同行するSETのメンバーと目が合うようになる
- 「こういうことをやってみたい」と話し始める
など、態度と行動が明確に変わる。
行政という立場を一度外し、「自分がやりたい」という動機が表に出てくる。
- 研修後には、ビーチクリーンや地域イベントなど、
職員発の自発的な活動が継続的に生まれる例もある。 - ある町長から「目の輝きが変わった」と言われたこともある。
明確な変化が確かにある。
4.横山氏(NPO法人MEGURU)による総括コメント
- 10年以上にわたり活動を継続していることに何よりもリスペクト(価値を感じる)。
人材育成分野は即効的効果が可視化されにくく、また“求めてもいけない”という部分もある。 - しかし、時間をかけることで、
「かつての子どもたちが今どうなっているかおこn」という回収可能な成果が見えてくる。 - そのためには、行政側にも「待つ姿勢」「待つ覚悟」が必要。
- また、「地域だからこそ人が育つ」 という可能性を信じることが重要。
- この地域には、
- 現場が近くにある
- 余白がたくさんある
- 挑戦できる素地が多い
という、人材育成のフィールドとしての強みがある。
- 民間人材も行政職員も含め、
一人ひとりが受け身から主体に変革するきっかけを、地域でどう生み出すか。 - その可能性を信じていくことが大切であると受け止めた。
交流から始まることの重要性
パネルトーク・トークセッションの後には、会場全員でのトークセッションとして、マグネットテーブル方式により、参加者が少人数で対話を行い、それぞれが得た気づきや学びを言語化・共有する時間が設けられた。
その後、役重准教授から、参加者のアウトプットを俯瞰した上で、本日の議論を踏まえた三つの重要な気づきが示された。本パートでは、結論を示すものではなく、今後それぞれの現場で行動を起こすための視点が整理された。
まず、全体を通して強調されたのは、「交流から始まること」の重要性であった。部署や組織、立場の壁を越えて互いを知ること、互いの得意分野や地域に存在する人材・資源を知り合うことが、人材育成や連携の第一歩になるとした。
気付き(1) 一人ひとりの自己実現を本気で応援する
第一の気づきとして示されたのは、「一人ひとりの自己実現を本気で応援することがなければ、人材育成は成立しない」という点である。基調講演や事例発表を振り返り、とりわけ個々人の「やりたい」という思いに真正面から向き合い、自己実現を支えている実践活動が、行政や商工団体、地域の住民などの共感や協力を自然に引き出していることに言及した。人材育成を、労働力不足への対応や組織防衛の視点から出発させるのではなく、まず目の前の一人の自己実現を中心に据えることが、結果として行政や民間、地域の巻き込みにつながっている点が強調された。
気付き(2) 人材を奪い合うのではなく、「プールを大きくする」
第二の気づきは、人材を狭いプールの中で奪い合うのではなく、プール自体を大きくするという発想への転換である。
この地域で人生をかけてもよいと思える人を一人でも増やすこと、それは行政だけ、あるいは民間だけでは実現できないからこそ、官民が役割を持ち寄り、協力することの必要性があるとされた。
気付き(3) 人材育成は人事課だけでは不可能
第三の気づきとして、人材育成を「人事課の仕事」に限定する発想は、もはや成り立たないことが明確になった。人を育てるという営みは、行政内部の人事担当部門だけでなく、民間企業の人事機能に対する商工・労政部門の支援、教育部門の取組、移住・定住施策など、複数の領域が密接に関わっている。しかし現状では、それぞれが縦割りで動いているため、重要な視点が見えにくくなっているという点が指摘された。
参加者へのメッセージ
最後に参加者に向けて、本日の気づきや学びを個人の中に留めず、それぞれの組織内へ持ち帰り、商工部門、教育委員会、あるいは首長など、立場を越えて共有してほしいと呼びかけた。参加者それぞれが交流を広げて繋がりを生む行動が、人材育成の次の一歩になることに期待を込めて、本シンポジウムを締め括った。


図 19 トークセッション・会場全体でのトークの様子


図 20 トークセッション(会場全体トーク)でのアウトプットの例
おわりに
本シンポジウムは、人材育成をテーマに、全国的にも先進的な取組を進めている塩尻市の事例に加え、県内各地で進められている実践事例を共有しながら、今後の人材確保・育成のあり方について、参加者と共に考える機会とすることを目的として開催したものです。
本シンポジウムを通じて改めて確認されたのは、一人ひとりの自己実現を起点とし、その成長を地域や組織全体で支えていく視点の重要性でした。人材育成を単一の組織や部門で完結させるのではなく、行政、民間企業、支援機関、地域住民など多様な主体が関わり、官民・広域の連携で人材を育て合うこと、本気で成長を応援することが、人口減少社会においてますます重要な「人的資本経営」に繋がるという認識を共有することができました。
国においても、「地方公共団体における人材育成に関する研究会」が令和8年3月にまとめた「地方公共団体の人材育成に向けた効果的な研修のあり方について」において、「研修による人材育成が職員本人のためになることはもちろん、将来的に組織のためにもなることをトップ層に認識してもらうことが必要」と改めて示されるなど、個人を起点とした人材育成施策の必要性、自治体経営における重要性が、今後も高まっていくと考えられるところです。
本シンポジウムで共有された考え方や事例が、本県市町村における官民・広域連携で取り組む人材育成施策の参考となり、ひいては持続的で安定的な行政サービスの提供を推進する一助となれば幸いです。
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令和8年3月 岩手県ふるさと振興部市町村課総括課長 |
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官民・広域連携で取り組む人材育成推進シンポジウム ~組織力向上を支える“地域内人材循環モデル”~ 開催報告書
発行年月日 令和8年3月
発行・編集 岩手県ふるさと振興部市町村課
お問い合わせ先 〒020-8570 岩手県盛岡市内丸10-1 電話:019-629-5230
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このページに関するお問い合わせ
ふるさと振興部 市町村課 行政担当
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