馬パラチフス
起因菌と病態
本病は馬へのSalmonella Abortusequi の感染により流産、関節炎、き甲部を含む全身各所の化膿巣、精巣炎、敗血症などが引き起こされる。流産が最もよくみられる病態であり、しばしば馬群内で集団的に発生する。流産はいずれの妊娠期にも発生するが、後期に発生し易い。流産は前駆症状なしに突然起こり、流産後の母馬は2、3日間高熱を稽留し、10日前後で平熱に復する。起因菌の感染動物種はウマ科の動物に限定される。
感染経路と感染馬の免疫
感染経路は経口であり、感染馬や保菌馬から排泄された起因菌に汚染された飼料や牧草を摂取することにより感染し、2週間前後の潜伏期間を経て発病する。多くの感染馬では、症状の回復に伴い起因菌が体内から消失するが、まれに骨髄や脾臓に残存して保菌馬となり、感染150日後に起因菌が検出された実験馬の存在が知られている。若齢馬は成馬より保菌馬になり易いが、その理由は不明である。感染馬は感染後の比較的短期間内に強い感染防御免疫を獲得することから、同一馬における流産の再発はない。感染防御には細胞性免疫が重要な役割を演じる。
剖検による病変と診断
流産胎子の剖検では、肺、肝臓、腎臓における充出血を伴う腫大、心筋の出血、褪色、弛緩がみられ、胎膜の検索により脈絡膜の充血と壊死、尿羊膜の混濁等が観察される。
診断は流産胎子の胃内容、骨髄、肺等の内臓諸臓器、成馬の化膿巣等からの起因菌の分離により行う。凝集抗原を用いた血清学的検査は浸潤調査や補助的診断に活用される。馬群の浸潤調査は抗体応答が鋭敏な若齢馬を中心に進められる。
予防と治療
予防には感染馬の隔離、流産馬の胎膜や排泄物の処分、馬房の消毒が重要である。保菌馬の診断は困難であるが、抗体検査を継続的に行い、抗体価が再上昇したり長期間に渡り下降しない際は保菌馬である可能性が高いと判断して馬群からの除去を考慮する。ワクチンは活用されていない。
本病では感染後に強い免疫が得られることから、感染馬への抗生物質の投与は一般には行われない。抗生物質投与による保菌馬からの除菌効果も不明である。
(病性鑑定課)
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