令和5年度部課長研修 知事講話
とき:令和6年1月31日(水曜日)
ところ:トーサイクラシックホール岩手(岩手県民会館)中ホール
対象者:総括課長級以上の職員
演題:「歴史と生きる~自分をエンパワーする最強の方法~」
「歴史と生きる~自分をエンパワーする最強の方法~」
今年は、自己啓発系の話をします。自己啓発系というのは、ハウツーものということです。
1 「歴史と生きる」とは
「歴史と生きる」というのは、わかりやすく言いますと、歴史と共にある、あるいは、歴史に基づいて行動する。角度を変えますと、歴史を尊重するということです。
2 歴史のいろいろ
歴史にはいろいろあります。「自分の歴史」というのがまずあります。自分が生まれてから今に至るまでの歴史です。それから、「家族の歴史」。自分の歴史が始まる前に親の歴史があります。また、結婚したり、子どもが生まれたりしていますと、そういう家族の歴史があります。家族の歴史を遡っていきますと、「先祖の歴史」。
それから「職場の歴史」。仕事をより良くやるためには、職場の歴史と共にある、職場の歴史に基づいて行動する、職場の歴史を尊重するということが大事だと思います。
あと、「地域の歴史」。これは自分の生まれた所だとか、今住んでいる場所だとか、そこの歴史ということです。地域の歴史を広げていきますと、「国の歴史」ということになりますし、国の歴史をさらに広げると、「世界の歴史」。世界の歴史イコール「人類の歴史」となると思います。
しかし、いきなり世界の歴史、人類の歴史から入っていきますと、そこにある情報量があまりに多く、とっかかりもどこから手をつけていいかわからないというところがありますので、まずは自分の歴史、「自分史」からスタートするのがいいと思います。
3 自分史からスタート
そこで自分史ノートというのがあります。インターネットの検索で「自分史ノート」と入れますと、いろんな会社が作っている自分史ノートの商品が出てきます。
大体、見開きの片方のページに、国内の歴史、国際の歴史、文化や流行といったものが並んで、もう片方のページに、その年の自分の歴史を書き込むようになっています。
私が買って使ってみたのは祥伝社新書『書き込み式 自分史サブノート』です。
この『書き込み式 自分史サブノート』は、私が生まれた1964年、昭和39年のところを開けますと、片側に大きな出来事が載っていて、もう片側にその年の自分のことを書き込むようになっています。この年、国内、政治・経済、社会そして国際、どういうことがあったか。まず、東京オリンピック開催ですね。経済協力開発機構OECDに加盟した年、東海道新幹線開業の年でもあります。中国が初の核実験に成功した年でもあります。
社会では、ミロのヴィーナス展、新潟大地震、東京モノレール開業。
出版では、河野実・大島みち子『愛と死をみつめて』、大松博文『おれについてこい!』バレーボールの監督ですね。
連載がスタートしたものとして、藤子不二雄『オバケのQ太郎』、白土三平『カムイ伝』。「平凡パンチ」と「ガロ」が創刊した年でもあります。
映画だと、「砂の女」、「赤い殺意」。これはあまり有名じゃないですね。洋画では「マイ・フェア・レディ」。「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」。
流行歌は、西郷輝彦「君だけを」、和田弘とマヒナスターズ「お座敷小唄」、越路吹雪「サン・トワ・マミー」、都はるみ「アンコ椿は恋の花」。レコード大賞は青山和子「愛と死をみつめて」。
ファッション・世相では、「アイビールック」、「JUN」、「VAN」とあります。あと、みゆき族、鍵っ子が話題になっていました。
流行語が「ウルトラC」、「おれについてこい」、「不定愁訴」。
テレビは、朝ドラが「うず潮」。大河ドラマは「赤穂浪士」。あとは、新春かくし芸大会が始まった年です。「木島則夫モーニングショー」。テレビ朝日のモーニングショーが始まった年ですね。「ひょっこりひょうたん島」もこの年に始まっています。
CMでは、「おめえ、ヘソねぇじゃねえか」これは、コルゲンのカエルですね。そして、「飲んでますか」これは、アリナミンのコマーシャルです。
ちょっと1964年だと、会場の皆さんに、あぁ、なるほど、という共感があまりないので、その10年後を見てみましょう。1974年、私は10歳で小学校4年生ですが、狂乱物価の年です。官公労などが史上最大の72時間ゼネスト。ウォーターゲート事件でニクソン大統領が辞任、文芸春秋田中首相金脈問題が国会で追及、そして田中首相が辞任表明というのが1974年。覚えているな、という会場の感じがみえてきました。
社会では、モンチッチ発売、ルバング島から小野田元少尉帰国、堀江謙一単独無寄港世界一周、東京都豊洲にセブン‐イレブン1号店開店、「ベルサイユのばら」上演、三菱重工ビル爆破事件、これは1974年、50年前だったのですね。佐藤栄作ノーベル平和賞受賞、長嶋茂雄引退。
出版では、『かもめのジョナサン』、『ノストラダムスの大予言』、『たべながらやせる健康食』。高木彬光の『邪馬台国の秘密』もあります。ジョージ秋山『浮浪雲』が出た年でもあります。
映画は、「砂の器」、「赤ちょうちん」、「伊豆の踊子」。これは山口百恵と三浦友和の「伊豆の踊子」ですね。洋画では、「スティング」、「エクソシスト」、「エマニエル夫人」。「エクソシスト」はちょうど50年前なんですね。
流行歌は、山口百恵「ひと夏の経験」、中条きよし「うそ」、グレープ「精霊流し」、西城秀樹「傷だらけのローラ」、りりィ「私は泣いています」、中村雅俊「ふれあい」。レコード大賞は、森進一「襟裳岬」。この辺は大体わかるのではないでしょうか。
ファッション・世相では、ブーツ大流行、ストリーキング、超能力(スプーン曲げ)、紅茶キノコブーム。紅茶キノコは、自分がやらなくても、テレビで見たとか、覚えている人がいるのではないでしょうか。
流行語では、「青天の霹靂」、「負けそう」。
テレビでは、朝ドラは「鳩子の海」、大河ドラマは「勝海舟」ですね。その他テレビとして、「寺内貫太郎一家」、「赤い迷路」、「パンチDEデート」、「宇宙戦艦ヤマト」、「アルプスの少女ハイジ」。ヤマトとハイジが同じ時間にやっていたのが1974年ですね。
CMでは、「クイントリックス」、「と、日記には書いておこう」。
というように、この頃は結構、文化が充実しています。
こういう共通史と自分史を重ね合わせていきますと、共通の歴史と自分の歴史がだんだん融合しまして、田中角栄辞職などの世の中の動きが、自分はその時10歳だった、小学4年生だったというようなことと合わさってきて、共通史が他人事ではなくて、何か自分に関係した歴史という感じがしてきます。
そしてまた自分の歴史というものも、世の中全体の歴史の中に位置付け直すことで、自分の小学生時代というのは、なるほど世の中そうだったから自分はああだったのだな、と感じられる効果があります。
世の中の共通史をさらに深めるためには、薄い小冊子形式で、岩波書店が、岩波ブックレットのシリーズで『年表 昭和・平成史』という、1年を1ページで掲載したものを出しています。1974年、昭和49年、ちょうど50年前は、先ほど話したような、ニクソン大統領がウォーターゲート事件で辞任のほかに、原子力船むつ放射能漏れ発見とか、椎名悦三郎自民党副総裁が三木武夫新総裁とする裁定案を提示した、いわゆる椎名裁定などが載っていて、より詳しくその年のことがわかります。さらに、歴史の教科書を作っている山川出版社の、『もういちど読む 山川日本戦後史』がありまして、詳しいことがたくさん書いてあります。
この『もういちど読む 山川日本戦後史』のような本で、戦後史を丹念に読みながら、自分はその頃こうだったというのを重ねて読むことで、言わば共通史が自分のものになるという感覚が生じてきます。それは、自分史的に共通史を振り返るという感覚が身につくということでもあります。
年を取り、50歳を過ぎてきますと、自分の50年という人生を物差しとして、共通史、例えば日本の歴史などの流れを把握できるようになってきますので、若い頃より共通史の把握が上手になります。
若い頃、20歳くらいの頃、自分が生まれた年から50年前というのは、想像を絶するはるか昔のような感じになってしまうのですけれども、50歳を過ぎますと、自分が生まれた年から50年前、私の場合は、1914年、第一次世界大戦が始まった年になりますが、それは結構身近に感じられるわけです。若いとそういう感覚を持てませんので、年の功というのはこういうところにもあるわけです。歴史というのを自分ごととして把握する。そういう感覚は、やはり年をとるほど、良くなっていくというところがあります。
ちなみに、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」ということわざがあります。これは、自分だけの経験で判断しないで、他の人の経験も参考にしましょうという意味です。世の中には、自分の経験にすら学ばない人たちがいますので、愚者は経験に学ぶと言ってしまうのは、結構厳しい言い方であります。このことわざが言いたいのは、歴史に学ばないのは良くないということです。
賢者は歴史に学ぶ。歴史というのは、他者の経験に自分の経験を合わせた、みんなの経験が歴史です。自分の経験だけを尊重するのではなくて、みんなの歴史を尊重すると、賢くなるということです。
4 先祖の歴史(家の歴史)、そして好きな歴史へ
自分史を振り返っておりますと、自然に先祖の歴史、家の歴史というものが視野に入ってきます。自分の親が若かった頃だとか、それはイコール自分が生まれた頃ですが、さらに自分の親が生まれた頃とか、祖父祖母の若かった頃、生まれた頃。家によっては、社会的に活躍して、社会的に認められた方が先祖にいて、そういう大事な先祖のことを、きちんと伝えていこうとやっている家もあると思います。自分の歴史からスタートして、歴史を広げていく場合に、まず自分の身近なところから広げていくといいのではないか、ということです。
身近な人から、自分の好きな人、自分がリスペクトできる人を、歴史の中に見出していくと、歴史がどんどん広がります。お世話になった先生、恩師。習い事の師匠。尊敬する先輩。そして、好きな歴史上の人物、特に哲学者・思想家など、皆さんそれぞれ広げられるでしょう。ここで参考になるのが宗教のことであります。
5 宗教と歴史、架空の歴史
宗教というのは、仏教にせよキリスト教にせよイスラム教にせよ、教祖様の歴史がまずあるわけです。教祖様がどのように生まれ育って、そして教えというものを得て、その教えをどのようにみんなに広めてきたか、という教祖様の歴史があって、それを伝え聞いた弟子たちの歴史というのが、それに続くわけです。そして、中興の祖が登場したり、組織の発展があります。
ですから、宗教を大事にし、信仰を持つというのは、その宗教の歴史と共に生きる、宗教の歴史に基づいて行動する、宗教の歴史を尊重するということでもあります。
私は、無宗教というのもありだと思いますけれども、宗教を良い形で持つ、良い形の信仰を持つというのは、人生を豊かにし、人格を高めると思います。歴史に関わる感覚というのは、宗教に関わる感覚から応用できると思います。
宗教と似たものとして神話があります。神話も、一つの歴史です。日本神話も、ギリシャ神話も、大体どこの神話も、歴史の形で語られます。そして、最初は登場人物が神様、人間ではない存在で始まるのですが、だんだん実在の人物が出てきます。神話から伝説へと話が進み、やがて歴史物語として描かれるようになっていきます。それは、語られることで後世に伝えられ、聞いていて楽しい、面白いというところがあります。神話や伝説には、英雄、豪傑が出てきて冒険をしたり、男女のロマンスもあります。歴史物語になると、実在の人物が出てくるけれども、フィクションのような場面もあり、エンターテインメントの起源といえるでしょう。
現在、我々が映画、テレビドラマ、小説、漫画など、フィクションとして楽しんでいるエンターテインメントというのは、元をたどれば、神話から始まり、集団をまとめていく歴史として語られた物語から発展してきたものでありまして、そういう中にも、好きな人やリスペクトできる人を見つけていってもいいのです。
まず、自分の歴史、次に家族、先祖の歴史と進め、強制はしませんけれども、自分の宗教の人物や歴史、神話、伝説、歴史物語の登場人物、さらには、現代の映画とか、アニメとか、そういうフィクションの中の登場人物でも、そこを取っかかりにして、自分の歴史として取り入れていくと良いと思います。
6 職場の歴史、地域の歴史
現実的な世界に戻りますと、職場の歴史、地域の歴史であります。職場の歴史は、単なる前例踏襲にしてはなりません。過去の経緯を知るというのは、とても大事なのですけれども、それを理解した上で、自分のものにして、これからやることについては、自分の主体性に基づいて、自由に判断して行動するということが必要です。
「歴史と生きる」の意味として、歴史に基づいて行動する、という言葉を挙げましたが、職場の歴史に基づいて行動する、というのは、単なる前例踏襲ではなくて、あくまで過去のみんなの経験を知って理解し、自分のものにした上で、自分の主体性に基づいて自由に判断し、行動してほしいと思います。そして、そういうものとして後進に伝え、後進と共有していくのです。
しかるべきポジションにつきますと、職場の歴史を自分のものにし、それを後輩たちに伝えていくのは非常に大事になりますので、よろしくお願いします。
地域の歴史も、職場の歴史と似たようなところがあって、町内会の歴史などは、現在の町内会の運営に役立ちます。さらに広く、市町村とか県とかという単位になってきますと、これは結構面白い分野です。
7 地方史の面白さ
市町村や県という単位の地域の歴史を、「地方史」と言います。地方史の面白さの参考になる話として、大河ドラマが取り上げる人物の変遷があります。
基本的に、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といういわゆる三英傑の物語から、伊達政宗とか毛利元就とか、地方大名が主人公の大河ドラマになっていきます。早い段階で地方の人が主人公になったものがあったり、あるいは「どうする家康」のように、最近になって、徳川家康が主人公になったりという例外もありますが、基本的には天下統一、オールジャパンレベルの人が主人公になるという段階から、伊達政宗、毛利元就という地方大名が主人公になり、さらにその次の段階として、直江兼続とか山本勘助とか黒田官兵衛、そして真田幸村もそうですけど、地方大名の軍師、地方のナンバーツーあたりが主人公になるというような、大河ドラマが続きます。
この大河ドラマの進化の最先端が「おんな城主 直虎」です。井伊家の当主が主人公になっているのですが、井伊家という地方の国衆(くにしゅう)という、地方大名の家臣のうちの一人くらいのローカルな人を主人公にしたのが、「おんな城主 直虎」でありました。大河ドラマファンの間では傑作として定評があり、私も観ていましたけれども面白かったです。このくらいのサイズの話になってきますと、登場人物が親しみやすくなり、武士と農民との関係とか、寺社が地域に果たす役割とか、そういうことがきめ細かく描かれるようになって、とても身近な歴史という感じがします。
そのくらいのサイズの歴史の本で、最近発見して面白かったのが、『解読「阿曽沼興廃記」遠野騒動と住田の歴史』という、荒木久一さんという住田町の町議会議長を務められた方が書いた、令和4年1月31日発行、2年前に出た本です。
遠野は、戦国時代に阿曽沼氏が支配していたのですが、お家争いで、阿曽沼広長という当主が追い出されて、住田に逃げていきます。そこで気仙地域の豪族たちを糾合して、遠野を取り戻そうとする、遠野騒動という歴史で、関ヶ原の合戦の頃に起きました。阿曽沼広長は、世田米城、上有住城、下有住外舘、さらに竹駒城、横田城、猪川城に越喜来城という、お城の城主たちと一緒に、300人とか400人ぐらいの軍勢で合戦をしたのです。
身近な地域の歴史でもありますし、またこの中には、裏切りを誘われるけれども、断固裏切りを拒否する、かっこいい英雄が出てきたりとか、次どうなるのだろうかという感じで話が進みます。遠野と気仙だけではなくて、いろいろな所にこのくらいのローカル度の歴史があるのだと思うのですけれども、そういうことを知るのは、非常に面白いです。
8 黒歴史-負の歴史とのつきあい方
地方の歴史というのは、深くディープに進んでいく方向性もあるのですけれども、一方で、原敬や新渡戸稲造など、郷土の先人のことを学んでおりますと、そこから日本史全体や世界史の方にも視野が広がっていきます。
そこで黒歴史、負の歴史とのつきあい方ということをお話しします。岩手は戦前戦中「軍国岩手」と言われていたそうです。岩手から陸軍大将や海軍大将がどんどん出て、板垣征四郎陸軍大将は陸軍大臣にもなり、満州事変を起こした張本人ということで、東京裁判ではA級戦犯になっています。
また、米内光政海軍大将は、海軍大臣そして総理大臣もやっていて、日米開戦を止めようとした、そして戦争になった日米の和平を実現しようとした、そこは良いのですけれども、日中戦争については、北支事変という中国北部の地域紛争だったものを、上海事変に飛び火させ、上海にいた日本海軍を守るために、南京攻撃や陸軍の派遣を強く主張し、日中戦争をスタートさせてしまったというところもあります。
そういう軍国岩手としての黒歴史があるのですけれども、いわば御先祖様がやったことであります。岩手の先人、岩手の歴史が、自分の歴史として馴染んできますと、そういう軍人として活躍していた皆さんについても、だんだん身内という感じがし、身内がしでかしたことというふうに感じてきます。ですから、罪を憎んで人を憎まず。いずれ、やったことは悪いので、そこは反省しなければなりません。
歴史にIfは禁物、歴史にIfはタブーということわざがあるのですけれども、そんなことは全然ありません。
あの時満州事変をやっていなかったらとか、日支事変を北京近郊の小競り合いで食い止めて上海に飛び火させないでおいたらとか、そういうIfを考えることは、非常に重要です。過去の先人、御先祖様がしでかしてしまったことというのは、仕方がないとは言えないのですけれども、そういうことをしてしまった人は憎まず、罪を憎んで人を憎まずで、やったことは悪いと理性で判断し、どうすればそれを防げたのか、そういう反省は繰り返しながら、しかし、それをやった人は身内でもあるし、そこは受け止めるというのが、負の歴史とのつきあい方だと思います。受容と反省です。
9 陰謀史観、歴史解釈の問題
日本の戦争に突入していった頃の歴史、そして敗戦に向かう歴史を、自分のものとして受け止めるのが嫌で、正当化しようとしたり、さらには、すべて人のせいにしてしまう陰謀史観というのがありますけれども、これは要注意です。
感情的に受け入れたくないような過去の黒歴史であっても、それを自分のものとしてしっかり受け止めて、そして反省をするということが基本姿勢であるべきです。歴史というのは、事実でできているわけです。他者の経験、自分の経験、みんなの経験イコール歴史であって、そういう経験というのは、言葉を変えれば事実です。事実から目をそらそうとしたり、あるいは事実について、感情的に受け入れられないとしてしまうと、歴史と共にあることができなくなってしまいます。陰謀史観の罠に入ってはいけません。歴史の解釈は、事実に寄り添うことで見えてくるもの。自分が触れる事実が増えれば、解釈は変わってくるものです。
10 主体的な「自分自身の歴史」
いよいよ、自分をエンパワーする最強の方法の、とっておきの話をします。
ドラえもんの漫画で、「ドラえもんだらけ」というエピソードがあります。やっていなかった宿題を一晩で完成させるために、タイムマシンを使って、2時間おきの未来のドラえもんを連れてくるという話です。2時間後のドラえもん、4時間後のドラえもん、6時間後のドラえもんというように、ドラえもんを5人集めて、協力して宿題を早く終わらせるのですが、それをやるとどうなるかわかりますか。現在のドラえもんが、2時間おきに呼び出され、くり返し宿題の手伝いをさせられるという、ひどい目にあうという話なのです。私は、過去や未来の自分と一緒に仕事をするという発想がとても印象的で、忘れられないエピソードになっています。
アンジェラ・アキの「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」という歌があります。NHK合唱コンクールの課題曲にもなりました。15歳の自分と未来の自分が手紙を出し合い読み合うという歌です。過去の自分と未来の自分、時間軸の中で違う所にいる自分同士が語り合い、助け合います。
過去の自分に対しては、その時の自分を思い出して、あのとき頑張ってくれてありがとう、あのとき頑張ってもらったおかげで今の自分があるというような、感謝をすることができます。未来の自分に対しては、今大変なんだけど頑張って何とかやっていて、ここを乗り越えさえすれば、未来がある、希望が生まれるので、あとは頼む、というような感じで、未来の自分を激励する。そうやって自分を時間ごとに分けて、自分と自分の間で励まし合う。これは、自分をエンパワーする方法としては、かなり強力です。
自分というものを、時間軸の中に複数設定して、自分との対話を通じて、自分で自分をエンパワーするということです。
いろんな人にエンパワーしてもらうことはできるし、いろんな人をエンパワーすることはすべきなのですが、いざという時、自分というものは、やはり最終的に絶対頼りになる存在です。過去の自分や未来の自分を信頼できない、という人もいるかもしれません。しかし、過去や未来の自分と信頼を構築できないようでは、他者との信頼を構築するのも難しいでしょう。まずは、過去や未来の自分を信じるところから始めましょう。
アンジェラ・アキの「手紙」は、過去と未来の自分、1対1の協力ですが、ドラえもんの場合は、時間軸を2時間ごとに刻んで、複数の自分を設定して、一カ所に集めて行う協力でした。時間軸を細かく分ければ、多くの自分を設定できます。武術の達人は、相手が剣を振り下ろし、それに自分が向かっていく時に、コンマ何秒の単位で、ほとんど無限に細かく時間を分けて、その瞬間、瞬間の自分をイメージしながら、相手に対応できるそうです。相手が止まって見える境地ですね。理論的には、1秒の時間の中に100万人の自分がいる、さらに1千万人、1億人の自分がいることも可能でしょう。1秒の中に、百万、千万、1億の自分を作ることができると思えば、百人、千人を相手に、何か話をしなければならない時とか、百万人が反対していることに対して、賛成論を言わなければならないという時に、自分を百人力、千人力、万、億と増やしていくことができますので、試してもらうといいのではないかと思います。
アンジェラ・アキ「手紙」式の1対1型と、短い時間の中に大勢の自分を召喚する型の中間として、自分の過去の歴史の中に好きな自分やリスペクトできる自分を見出して、その自分たちの協力を得るという、過去の複数の自分型があります。自分史を振り返り、頼りになる自分を見つけ、心を通わせておくとよいでしょう。
時間軸の中に複数の自分を設定し、協力し合うというのは、イメージにすぎないと言えばそのとおりなのですが、アンジェラ・アキの「手紙」にかなりの説得力があるように、イメージは、人をエンパワーすることができます。イメージにもいろいろありますが、自分のイメージこそ、最も現実的で、的確にイメージしやすいイメージなので、最強のエンパワーが可能です。
11 歴史でエンパワー
過去の複数の自分型を発展させると、お互いにエンパワーするのが、自分だけではなくて、家族、先祖、自分が好きな人、自分がリスペクトする人、そういう人たちに広げられます。さらに広げて、歴史上の人物を相手にしてもいいですし、神話や伝説上の存在でもよく、さらに、映画とかアニメとか、フィクションの中に求めてもいいわけです。
そのように、エンパワーし合える存在をたくさん持てば持つほど、自分をエンパワーすることが容易になります。「歴史と生きる」ということを心掛ければ、それが可能になります。
ある歴史上の人物は、自分の考えを理解できる人物が、今はいないと思われるけれども、自分の死後何年も経てば理解者が出てくるだろうから、それで良い、と述べています。未来の誰かに発信された過去の人物の思いを受け止めて、交信することもできるのです。
歴史にエンパワーされている人は、その人が他の人をエンパワーするときに、その人をエンパワーしている歴史を全部背負って、他の人をエンパワーします。例えば岩手県知事の仕事をする場合、岩手の歴史を自分の歴史にしたいと思うわけですが、これがうまくいくと、自分が何かする時、そこには岩手の歴史が込められますので、非常に強力になるわけです。いろいろな歴史を背負いましょう。
ということで、歴史と生きる、自分をエンパワーする最強の方法。まだちょっと、本当にそうなのかなという雰囲気が感じられるところではありますが、よく考えていろいろ試してみて、自分をエンパワーし、そして周りをエンパワーしてほしいと思います。
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