令和5年2月県議会定例会知事演述

ページ番号1062202  更新日 令和5年2月27日

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1 はじめに

 本日ここに第24回県議会定例会が開会されるに当たり、今後の県政運営について、私の所信の一端を申し上げます。

 今月6日にトルコ共和国南東部で大規模地震が発生しました。犠牲になられた方々に、哀悼の意を表します。また、被害を受けられた皆様に、心からお見舞いを申し上げます。

2 東日本大震災津波からの復旧・復興

 東日本大震災津波から12年を迎えようとしています。

 岩手県民は、被害の大きさと犠牲の多さに衝撃を受けながらも、難を逃れた方々が、安全を確保して生活の再建となりわいの再生を果たせるように、犠牲になった方々のふるさとへの思いを継承し、「いのちを守り 海と大地と共に生きる ふるさと岩手・三陸の創造」に、一丸となって取り組んできました。

 この間、全国や海外から多くの御支援をいただき、国内外との絆に支えられてきました。

 被災された方々、御支援いただいた皆様の御尽力に敬意を表し、感謝申し上げます。

 

(東日本大震災津波からの復旧・復興の成果と課題)

 復興道路・支援道路・関連道路が完成し、県土の縦軸、横軸を構成する、新たな道路ネットワークが形成されました。

 防潮堤などの津波防災施設も整備が進み、その多くが完成しました。

 一方、「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震」に備え、市町村と連携して、更なる津波防災対策を進める必要があります。

 被災者一人ひとりの状況に応じたきめ細かい支援や、不漁対策などのなりわいの再生に、中長期的に取り組んでいく必要もあります。

 

(これからの取組)

 成果と課題を踏まえ、「誰一人として取り残さない」という理念のもと、「三陸のビルド・バック・ベター(より良い復興)」を進めます。

 残された社会資本を早期に整備します。

 「岩手県地震・津波被害想定調査報告書」に基づき、市町村の津波避難計画の見直しや個別避難計画の作成、避難場所の整備促進など、沿岸市町村の取組をきめ細かく支援します。

 被災者のこころのケア、新たなコミュニティの形成支援、担い手の確保、そして、主要魚種の不漁やコロナ禍・物価高騰等の影響を受けた事業者支援を進めます。また、交通ネットワークを活用し、三陸ならではの資源を生かした産業振興を推進します。

 「東日本大震災津波を語り継ぐ日条例」の趣旨にのっとり、震災と復興の伝承と発信を継続し、国内外の防災力向上に貢献することを目指します。

 復興支援の継続と財源の確保を、国へ提言・要望して参ります。

3 第1期アクションプラン期間中の成果と課題

 平成19年の知事就任以来、危機を希望に変えるため、「いわて希望創造プラン」、「いわて県民計画」を推進し、東日本大震災津波の災害対応と復興に取り組み、「幸福」をキーワードに「いわて県民計画(2019~2028)」を策定し、県政の諸課題に取り組んで参りました。

 この間、人口の社会減は、就任当時の6千人台から4千人台まで縮小、県民所得は、国民所得水準の7割台から8割台まで上昇。また、雇用環境は、正社員有効求人倍率が0.31から0.96まで上昇、人口10万人当たりの医師数は、186人から223人まで増加しました。

 一方、「いわて県民計画(2019~2028)」第1期アクションプラン期間中であるこの4年間に、世界的な危機が相次いで発生しました。

 

⑴ 新型コロナウイルス感染症対策

 まず、新型コロナウイルス感染症です。

 これまでに、全世界で6億人を超える方々が感染し、6百万人を超える方々が亡くなったとされています。

 国内では、本年2月14日現在の感染者数は3千万人を超え、死亡者数は70,923人となっています。

 県内においても229,867人の方々が感染し、596人の方々が亡くなっています。

 新型コロナウイルス感染症でお亡くなりになられた方々に、哀悼の意を表します。そして、感染を経験された皆様に、お見舞いを申し上げます。

 県民の命を守るため、最前線で治療にあたっておられる医療関係の皆様、介護・福祉・教育関係の皆様、様々な場面場面で感染防止に御尽力いただいている皆様に、心から敬意を表し、深く感謝申し上げます。

 県民の皆様におかれましては、場面場面に応じた感染対策の徹底に御協力いただき、改めて感謝申し上げます。

 

(第8波への対応)

 昨年から、感染力の強いオミクロン株が猛威を振るい、本県は昨年12月に過去最多の月間感染者数、先月に過去最多の月間死者数を経験しました。

 自宅療養者の支援機能を強化するため、「いわて健康フォローアップセンター」を設置し、医療機関のひっ迫を緩和するため、「いわて検査キット送付センター」「いわて陽性者登録センター」を設置しています。

 コロナ禍で、物価高騰等の影響を受けている消費者・事業者を応援するため、「いわて県民応援!プレミアムポイント還元キャンペーン」を実施しています。

 引き続き、適切な保健・医療体制の確保、社会・経済活動への支援など、必要な対策を講じて参ります。

 

⑵ 原油価格・物価高騰対策

 次に、原油価格・物価の高騰です。

 欧米等のコロナ反動景気や、ロシアによるウクライナ侵攻、また円安により、国際的な原油や穀物等の価格が、変動を伴いつつ高い水準で推移しています。

 これは日本・岩手にも及び、エネルギー・原材料・資材等の価格の上昇が、第一次産業や、企業・事業者の経営に打撃を与えています。また、生活関連の度重なる値上げにより、県民の生活も大きな影響を受けています。

 県では、全国に先駆けて、原油価格・物価高騰対策パッケージを取りまとめ、子育て世帯や中小企業者、農林漁業者等への幅広い支援など、累次の補正予算を編成して対応して参りました。また、全国知事会を通じて、強力な経済対策を講じるよう国に要請して参りました。

 原油価格・物価高騰は、長期化が見込まれています。

 本県の社会経済活動や県民への生活に及ぼす影響を最小限にとどめるため、今後も臨機応変に対応して参ります。

4 第2期アクションプランの推進方向

 コロナ禍の中、日本の人口減少が加速しています。

 本県の人口も、平成9年以降減少を続けています。

 これまでの成果と課題、市町村長との意見交換や、関係団体等からの御意見・御提言を踏まえ、第2期アクションプランでは、人口減少対策を最優先で取り組むべきものと位置付けています。

 そのために、組織体制を強化し、必要な予算を重点的に措置します。

 そして、4つの重点事項を掲げ、10の政策分野や11のプロジェクトなど、県民計画に基づく施策を着実に推進することとしています。

 さらに、県と市町村、関係団体等が連携し、共同で取り組む方向性を明らかにし、県内外の関心を高め、理解と参画を促し、地域の人口減少・少子高齢化の状況や地域特性等にもきめ細かく対応し、政策の実効性を高めたいと思います。

 

(1) 人口減少社会への対応

(自然減・社会減対策の推進)

 4つの重点事項の1つ目は、人口の自然減・社会減対策の推進です。

 本県の人口は、令和4年10月時点で約118万人となりました。

 人口減少は、未婚化・晩婚化や、仕事と育児の両立の困難さなどによる出生数の減少、若年層を中心とした転出超過が大きな要因となっています。

 県はこれまで、雇用環境や保育環境の整備、ものづくり産業の集積、移住・定住施策を推進し、保育所等の待機児童の減少、過去最高の高卒者県内就職率、U・Iターン就職者の増加につながっています。

 一方、全国的に、コロナ禍の中、地方に向かう個人の意識・行動変容がみられましたが、東京一極集中に歯止めがかかっておらず、出生数も減少しています。

 人口減少対策の主要な柱として、男女がともに活躍できる環境づくり、一人ひとりの能力を発揮できる良質で安定的な雇用の確保をはじめとする、自然減・社会減対策を進めます。

 自然減対策としては、結婚、妊娠・出産、子育ての各ライフステージに応じた総合的な施策を推進します。社会減対策としては、若年層の県内就職やU・Iターンの促進に向けた取組を強化します。

 自然減対策と社会減対策の相乗効果を図るため、岩手県人口問題対策本部をベースに、全庁を挙げて施策を推進します。

 「いわての子 みんなでつくる 大きなゆりかご」のスローガンのもと、オール岩手で人口減少対策に取り組みます。

 

(GXの推進)

 2つ目は、GX、グリーン・トランスフォーメーションの推進です。

 近年、世界各地で、気候変動が一因と考えられる異常気象が頻発しています。地球温暖化対策は喫緊の課題であり、その対応は将来世代への責任です。

 本県では、省エネルギー対策や森林吸収源対策等の推進により、温室効果ガス排出量が着実に減少しています。また、再生可能エネルギーによる電力自給率が上昇しています。

 一方、いまだ世界の年平均気温は上昇傾向にあり、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、取組の強化が必要です。

 本県においても、2030年度の温室効果ガス57%削減を目標とする「第2次岩手県地球温暖化対策実行計画」に基づき、省エネルギー対策、再生可能エネルギーの導入促進、森林資源の循環利用を推進します。

 また、温暖化防止いわて県民会議を中心に、県民、関係機関・団体が一体となった県民運動を強化します。

 地域経済と環境に好循環をもたらす脱炭素社会、持続可能な社会を目指します。

 

(DXの推進)

 3つ目は、DX、デジタル・トランスフォーメーションの推進です。

 デジタルの力を活用し、人口減少など地域が抱える社会問題の解決を図り、個性豊かで活力に満ちた地域社会の可能性を広げます。

 全ての県民がデジタル化の恩恵を享受できるよう、「岩手県DX推進計画」に基づき、あらゆる産業のDXを促進します。

 また、介護・子育て・医療分野における利便性の向上、教育分野における新たな学びの実現、情報通信インフラの整備、市町村への支援を進めます。

 ドローンについては、防災、地域振興、林業振興、森林保全、警察活動等、実装を進めます。

 

(安全・安心な地域づくりの推進)

 4つ目は、安全・安心な地域づくりの推進です。

 県民一人ひとりが、お互いに支えあい、幸福を追求することができる地域社会の実現のためには、「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震」をはじめとした大規模災害や、新たな感染症などに備えていく必要があります。

 東日本大震災津波や新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえ、リスク発生時に的確に対応できる安全・安心な地域づくりを推進します。

 

(デジタル田園都市国家構想)

 これら4つの重点事項は、地域の特性を生かして分散型社会の形成を目指すものであり、国の「デジタル田園都市国家構想」や、それを実現するための「デジタル田園都市国家構想総合戦略」と、軌を一にするものです。

 

(2) 政策の推進

 第2期アクションプラン期間において推進する、特徴的な政策について申し上げます。まず、3つのゾーンプロジェクトです。

 

(3つのゾーンプロジェクト)

 北上川流域は、自動車や半導体、医療機器等の関連産業の集積が進み、企業の設備投資や生産拡大が行われ、雇用の創出が続いています。

 北上川バレーの豊かな自然や文化、恵まれた生活環境と調和する、働きやすく、暮らしやすい、産業振興を進めます。

 三陸地域においては、復興の取組から、まちづくりや交通ネットワークの形成が進み、物流などの利便性が大きく向上しました。

 こうした基盤を積極的に活用し、国内外との交流を活発化させ、持続可能な三陸地域を創造します。また、三陸ジオパークが日本ジオパークとして確実に再認定されるよう、市町村や関係団体等と連携し、万全を期して参ります。

 北いわてにおいては、食産業やアパレル産業、漆関連産業などの産業の振興、世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」を起点とした、広域交流圏の形成が進んでいます。

 また、「北いわて産業・社会革新推進コンソーシアム」、「COI-NEXT岩手サテライト」の設立などで、最新の学術が多彩な地域資源と結びついて、地域が発展する期待が高まっています。

 北いわてのポテンシャルを最大限に発揮して、持続的に発展する先進的な地域社会を目指します。

 

(ILCの推進)

 ILC実現に向けては、現在、国内外の研究者により、国際共同研究の推進や、政府間協議の環境づくりに向けた取組が進められています。

 ILCは、学術的な意義に加え、日本誘致により、日本の国際的信頼と科学技術外交への貢献、イノベーションの創出と産業の発展など、多様な価値を生み出すものと期待されています。

 県としては、県内外の関係団体等とともに、国民的な機運を醸成し、日本誘致に向けた大きな流れを作り出しながら、国家プロジェクトとして政府全体で推進するよう、国に強く働きかけて参ります。

 また、受入環境の整備や加速器関連産業への参入促進などにも、全力で取り組んで参ります。

 

(行財政運営の改革)

 昨年、有識者で構成する行財政研究会を開催し、中長期的な視点に立った行財政運営の方策について、「持続可能で希望ある岩手を実現するための行財政改革に関する報告書」をまとめました。

 この報告書を参考とし、人口減少といった構造的課題に正面から立ち向かうための施策を、第2期アクションプランに反映させています。また、未来を見据えた希望ある岩手の実現に向け、中長期的な取組を要するものについては、関係者等との丁寧な議論を進めていきます。

 さらに、不断の改革を通じて、持続可能な行財政基盤を構築して参ります。

 

(主要行事の開催に向けた対応)

 令和5年6月4日には、天皇皇后両陛下の御臨席を仰ぎ、高田松原津波復興祈念公園において、「第73回全国植樹祭」を開催します。

 本県の豊かな森林環境の継承と、林業の持続的な発展に向けた機運を醸成します。また、復興の姿を国内外へ発信する絶好の機会でもあり、全庁を挙げた実施体制を確保し、万全を期して参ります。

 令和6年1月から3月にかけては、JR東日本と連携し、「冬季観光キャンペーン」を実施します。

 外国人観光客にも人気のあるスキーや温泉、食などの観光資源を生かした旅行商品の造成や国内外への情報発信により、観光需要の回復、誘客拡大を図ります。

 今年度から令和8年度までを「県政150周年記念期間」と位置付け、様々な記念事業を行います。

 岩手の歴史を振り返り、岩手を発展させてきた先人に感謝し、岩手の未来を展望する機会としたいと思います。

5 令和5年度の主要施策の概要

 以下、復興推進の4本柱と10の政策分野に沿って、令和5年度の具体的な施策について申し上げます。

 はじめに、東日本大震災津波からの復興です。

 

⑴ 復興の推進

(安全の確保)

 「安全の確保」として、

 津波防災施設の整備や自主防災組織の活性化、県民の避難意識・防災意識の向上など、多重防災型まちづくりを推進します。

 大規模災害発生時において、応急対応フェーズから復旧・復興フェーズヘの円滑な移行を図るため、災害マネジメントサイクルを推進します。

 「移転元地」や「造成地」の利活用を支援します。また、風評被害の払拭に向けた、放射線影響対策を実施します。

 発生が予想される巨大地震津波に備え、沿岸市町村とともに、今年の夏を目途に、被害想定を踏まえた具体的な減災対策を取りまとめます。

 

(暮らしの再建)

 「暮らしの再建」として、

 「いわて被災者支援センター」において、市町村や関係機関と連携し、課題を抱える被災者一人ひとりに寄り添った支援を行います。

 地域コミュニティの形成・維持・活性化のため、コーディネーターを配置し、市町村を支援します。また、生活支援相談員を配置し、見守り活動を行います。

 「岩手県こころのケアセンター」や「いわてこどもケアセンター」において、被災者や子どもの心のケアを中長期的に実施します。

 郷土に愛着や誇りを持ち、復興・発展を支える人材や、災害発生時に主体的に行動する人材を育成するため、地域や関係機関・団体と連携し、「いわての復興教育」を推進します。

 

(なりわいの再生)

 「なりわいの再生」として、

 主要魚種の不漁に対応するため、大型で遊泳力の高いサケ稚魚の生産や、藻場の再生による資源回復、増加しているウニ資源を有効活用する蓄養・出荷、アサリの養殖など、新たな漁業・養殖業の導入を推進します。

 また、地域漁業を担う人材の育成や、自動給餌システムの導入によるスマート水産業を推進します。

 原木しいたけの産地再生のため、出荷制限の解除に向けた支援を継続します。また、生産拡大や販路拡大を促進します。

 事業者の経営安定化のため、産業支援機関と連携し、中長期的な事業計画の策定や、売上増加に向けた支援を行います。

 「三陸DMOセンター」を中心に、市町村や観光事業者等と連携し、魅力ある地域づくりを推進します。

 

(未来のための伝承・発信)

 「未来のための伝承・発信」として、

 東日本大震災津波伝承館を拠点とした、震災の事実・教訓の伝承を進めます。また、県内の震災伝承施設と連携し、周遊機会を創出します。

 各地域で活動している震災ガイドの交流を促進し、防災・震災伝承の担い手を育成します。

 

⑵ 10の政策分野の推進

 10の政策分野については、政策評価に基づくマネジメントサイクルにより、施策の成果と課題を県民と共有し、計画の実効性を高め、施策を推進して参ります。

 

(健康・余暇)

 「健康・余暇」分野では、

 「健康寿命が長く、いきいきと暮らすことができ、また、自分らしく自由な時間を楽しむことができる岩手」の実現のため、県民一人ひとりがケア、あるいはエンパワーされるよう取り組んで参ります。

 市町村と連携し、相談・支援体制を強化します。また、新たに、岩手県福祉総合相談センターと岩手県立県民生活センターの移転・整備に向けて、調整を進めます。

 包括的な自殺対策プログラムを推進し、一人ひとりの事情に応じた相談支援体制を充実させます。

 ヤングケアラーやダブルケアなど、複雑化・複合化した支援ニーズに対応するため、包括的な支援体制を構築する市町村を支援します。

 生活困窮者の生活再建のため、市町村や関係団体と連携し、地域の実情に応じた支援体制を構築し、就労準備支援や家計改善支援等のメニューを拡充します。

 福祉・介護職の人材を、確保・育成します。

 脳卒中予防や健康増進対策に取り組むなど、健康寿命の延伸を図ります。

 急性期医療から在宅医療に至るまで、切れ目のない医療提供体制を構築するため、次期保健医療計画の策定を進めます。また、医師の確保と地域偏在の解消、看護職をはじめとする、医療従事者の県内定着を推進します。

 県民の命と健康を守るため、引き続き、医療局に200億円余を繰り出します。

 障がい者の自立と一層の社会参加に向け、農福連携の取組を支援します。

 令和5年4月に、「いわて盛岡ボールパーク」がオープンします。これまでの岩手県営野球場を継承し、本県野球の新たな聖地となるよう、「いわて盛岡ボールパーク」を活用した地域振興・スポーツ振興を推進します。

 障がいの有無や年齢にかかわらず、県民一人ひとりがスポーツに取り組むことができる環境を整備します。また、身近に文化芸術活動を発表・鑑賞できる機会の充実を図ります。

 

(家族・子育て)

 「家族・子育て」分野では、

 生きにくさを生きやすさに変え、安心して子どもを生み育てられる環境をつくることが重要です。子ども、妊産婦、ひとり親家庭の医療費の自己負担分を助成し、高校生までの医療費助成の現物給付を行います。市町村と連携し、第2子以降の保育料を無償化し、また第2子以降の在宅育児に支援金を支給して、子育て世帯の経済的負担を軽減します。

 若い世代が将来を見通し、積極的にキャリアとライフプランを考えることができるよう、高校生等のライフデザインを支援します。

 「“いきいき岩手”結婚サポートセンター」に、新たに結婚支援コンシェルジュを配置します。マッチング支援に、AIを活用します。

 不妊治療への助成や、休暇制度に関する企業への働きかけを強化します。

 妊娠・出産、子育て時における、孤立感や不安感を解消するため、市町村による相談支援と経済的支援を一層支援します。また、産後ケアの無償化を引き続き進めます。

 市町村と連携し、保育や子ども・子育て支援の受け皿を整備し、保育人材を確保します。

 子どもの貧困対策や、ひとり親家庭等への支援を推進します。

 児童虐待を防止するため、市町村における相談体制の充実と機能強化を支援します。また、児童相談所の体制を強化します。

 一人ひとりの特性に応じた療育が身近に受けられるよう、地域療育ネットワーク機能を充実させます。

 「医療的ケア児支援センター」を中心に、医療的ケア児の支援体制を構築します。

 

(教育)

 「教育」分野では、

 「いわて幼児教育センター」を中核として、就学前教育の充実を図ります。

 高校魅力化を支援し、大学等進学を目指す高校生への奨学金制度の新設など、進学支援を強化します。STEAM教育を推進します。

 世界と岩手をつなぐ人材の育成、ものづくり産業、農林水産業、建設業などの産業人材の確保・育成を進めます。また、専修学校を含め、特色ある私学教育の充実を図ります。

 世界や全国で活躍するトップアスリートを育成するため、スーパーキッズの発掘・育成や、最新のデジタル技術を活用した指導者の資質向上、選手の競技力向上を推進します。

 また、文化芸術分野で活躍する人材を育成するため、人材ネットワークの形成や、誰もが文化芸術活動に取り組める環境の充実を図ります。

 中学校の休日部活動の地域移行を進めるため、地域における受け入れ体制の整備を行います。

 児童生徒の、不登校等対策を推進します。

 「いわて高等教育地域連携プラットフォーム」をベースに、リカレント教育を発展させ、また、県内大学の魅力を高めます。

 図書館資料のデジタル化など、社会教育分野のDXを推進します。

 

(居住環境・コミュニティ)

 「居住環境・コミュニティ」分野では、

 人流ビッグデータ等の活用により、次期地域公共交通計画を策定し、住民のニーズに対応した持続可能な公共交通ネットワークの構築や、地域公共交通の利用を促進します。

 水道事業者の経営基盤の強化、水道施設の耐震化、汚水処理施設の統廃合による設備の有効活用を推進します。

 首都圏在住者を中心とした、移住希望者への情報発信の強化や、移住支援金の増額、受け入れ体制の強化などにより、本県への移住・定住を促進します。

 地域おこし協力隊の受け入れ拡大、OB・OGネットワークの活用、地域協力活動の充実、コミュニティの活性化で、本県への定住につなげます。

 市町村と連携し、住宅の耐震化、若者・移住者の定住推進に向けた空き家の利活用を促進します。「いわてお試し居住体験事業」など、県営住宅も活用します。

 市町村・関係機関と連携し、日本語教育の総合的な支援など、外国人県民が暮らしやすい環境をつくります。

 「ハロウインターナショナルスクール安比ジャパン」との連携など、国際化、多文化共生を推進します。

 

(安全)

 「安全」分野では、

 県民の避難・防災意識の向上、住民が互いに助け合う体制の強化、防災機関が連携した防災・減災体制の整備を推進します。また、市町村における消防団の充実強化を支援します。

 盛岡市、八幡平市、滝沢市、雫石町を会場に、火山噴火を想定した「令和5年度岩手県総合防災訓練」を実施します。

 防犯意識の高揚を図るため、特殊詐欺被害に遭わないための啓発活動や地域安全マップの作成を支援します。

 性犯罪・性暴力被害者を総合的に支援し、心身の負担軽減を図ります。

 消費者被害の防止と救済を図るため、消費者教育を推進し、相談対応を充実させます。

 輸入食品を含む、県内流通食品の検査・指導を実施するなど、食の安全・安心の確保を図ります。

 鳥インフルエンザなど、家畜の悪性伝染病の発生を防ぐため、飼養衛生管理の徹底や病原体の侵入防止対策、豚熱ワクチンの接種を行います。また、危機事案発生時を想定した訓練を実施します。

 

(仕事・収入)

 「仕事・収入」分野では、

 「いわてで働こう推進協議会」を核として、若者や女性などに魅力ある雇用・労働環境の構築、U・Iターンによる人材確保を進めます。岩手で働く魅力・価値や県内の企業に関する情報を、若者とその関係者に伝えます。また、「いわて働き方改革推進運動」の展開により、子育てと仕事の両立を図る家庭への支援を強化します。

 「いわてスタートアップ推進プラットフォーム」を設置し、起業する段階や形態に適したプログラムを提供するなど、起業・スタートアップの支援を強化します。また、県内で起業等を希望する若者・女性を対象とした、開業資金貸付制度を創設します。

 デジタル技術人材の育成や技術の高度化支援など、ものづくりのグローバル拠点化を推進します。

 新北上浄水場の工業用水供給など、北上川流域における企業の立地や拡張に対応します。

 消費者ニーズに応じた商品開発やECサイトの活用、オンラインを活用したプロモーションの強化など、加工食品や伝統工芸品などの地場産品の販路拡大を図ります。

 産業のDX・GXに資する、研究シーズの育成や研究開発を支援します。

 デジタルリスキリングを推進するなど、中小企業のDX・GXの取組を、関係団体と連携し、積極的に支援します。

 県内企業の円滑な事業承継を推進します。 

 「いわて観光データ・マネジメント・プラットフォーム」を活用した動態分析を行うなど、観光DXを推進します。また、いわて花巻空港の利用促進を図るなど、観光客を含めた交流人口の拡大を推進します。

 県産品の輸出や、インバウンド誘客の取組を強化します。

 農林水産業の持続的な発展と農山漁村の活性化を図るため、地域の農林水産業をけん引する経営体の育成、次代を担う新規就業者の確保・育成、地域運営組織等の育成に取り組みます。農林水産業分野でのGXを推進します。

 農業者の所得向上に向け、農業DXの推進や、高収益な野菜等への作付転換の促進、生産基盤の着実な整備、県産米の需要拡大を図ります。

 県産木材利用の機運を捉え、県産木材の供給拡大や住宅・商業施設等における利用を促進します。

 農林水産物の輸出拡大に向け、海外市場に応じたフェア開催やバイヤーの招へいなど、戦略的なプロモーションを展開します。

 野生鳥獣による農作物被害防止のため、県の体制を強化し、有害鳥獣の捕獲や防護柵設置など、地域の被害防止活動の支援を強化します。

 

(歴史・文化)

 「歴史・文化」分野では、

 「平泉世界遺産ガイダンスセンター」を拠点とし、平泉の価値を広く伝え、後世へ継承します。

 「平泉の文化遺産」「明治日本の産業革命遺産」「北海道・北東北の縄文遺跡群」の3つの世界遺産と、それぞれの地域が有する文化遺産のネットワークを構築し、交流人口の拡大を図ります。

 ユネスコ無形文化遺産に登録された「永井の大念仏剣舞」や「鬼剣舞」をはじめとする、本県が誇る豊かな民俗芸能の魅力を県内外へ発信します。また、後継者の育成による次世代への確実な保存・継承や、文化資源を活用した地域活性化を推進します。

 

(自然環境)

 「自然環境」分野では、

 脱炭素社会の実現のため、新たに、県市町村GX推進会議を設置し、市町村の施策を積極的に支援します。

 循環型地域社会の構築に向け、3Rや海岸漂着物対策、食品ロス削減を推進します。

 公共関与型産業廃棄物最終処分場について、着実な整備を支援します。

 今年度、原状回復を完了した、青森県境産業廃棄物不法投棄事案について、その教訓を後世に伝えて参ります。

 温室効果ガスの削減に向け、J-クレジットの創出・活用、藻場の再生・造成を推進します。

 再生可能エネルギー導入量の拡大に向け、エネルギーの地産地消、海洋エネルギー関連産業創出、バイオマス資源活用、水素利活用、EV等の普及を推進し、「入畑発電所」や「胆沢第二発電所」の再開発を進めます。

 本県の優れた自然環境を守るため、希少野生動植物の生息状況調査を実施します。

 環境問題の解決に必要な資金を調達するため、グリーンボンドを新たに発行します。

 

(社会基盤)

 「社会基盤」分野では、

 近年頻発する自然災害に備え、ハード・ソフトを組み合わせた防災・減災対策、国土強靱化を推進します。あらゆる関係者が協働し、流域全体で水害を軽減させる、「流域治水」を一層進めます。

 盛土等による災害を防止するための基礎調査を実施します。

 迅速に緊急活動や物資輸送を行うことができるよう、緊急輸送道路の整備、橋梁の耐震化を推進し、災害に強い道路ネットワークの構築を進めます。

 DX推進のため、5G情報通信基盤整備を促進します。また、デジタル人材を育成します。

 産業や観光振興の基盤となる道路の整備や、道路環境の改善を進めます。また、港湾の利活用を促進し、クルーズ船の寄港の拡大を図ります。

 社会資本が、将来にわたって持続的に機能を発揮するよう、予防保全に向けた計画的な維持管理を進めます。

 建設業のDX推進、人材育成を支援します。

 

(参画)

「参画」分野では、

 女性の社会参画拡大や、多様な性のあり方への理解促進を図り、性別や年齢、障がいの有無に関わらず、一人ひとりが尊重される社会を目指します。

 アンコンシャス・バイアスのない、助け合える企業風土づくりに向け、セミナーや企業見学会を開催し、経営者の意識醸成を図ります。

 女性のキャリア形成支援や「いわて女性活躍企業等認定制度」の普及拡大などにより、女性が活躍できる職場環境を整え、女性の県内定着を促進します。

 若者の主体的な活動への参画を促進するため、地域課題の解決や地域活性化に向けた若者の取組を支援します。また、地域をけん引する若者を育む環境をつくります。

 

(新しい時代を切り拓くプロジェクトの展開)

 「新しい時代を切り拓くプロジェクト」については、先に述べたプロジェクトに加えて、小集落における世代間交流の促進、多様な交流の場の創出、農林水産業の高度化、健康づくり、学びの充実など、DXを活用した新たな価値・サービスを創造します。

 また、地域資源を生かした文化芸術やスポーツの振興、水素を活用した持続可能なグリーン社会の実現を目指します。

 

(地域振興の展開)

 持続的な地域社会を築くため、地域社会を構成するあらゆる主体との連携・協働のもと、地域の現状や資源・特性をしっかりと捉え、各圏域に応じた施策を講じて参ります。

 県北・沿岸圏域においては、全県に先行して人口減少が進行していることから、豊かな地域資源や新たな社会資本を最大限に生かした、産業振興を推進します。また、地域間交流を強化・拡大し、過疎・山村などの、条件不利地域の振興を図ります。

 市町村を取り巻く環境の変化を踏まえ、市町村と方向性を共有し、県民に必要なサービスが持続的に提供されるよう、市町村相互や県・市町村との連携・協働を一層進めます。

6 質の高い行政経営の推進

 直面する行政課題に的確に対応し、政策の実効性を高めていくため、働き方改革を一層進め、より質の高い行政経営を推進します。

 県民、企業、NPO、関係団体、市町村など、あらゆる主体がそれぞれ主体性をもって連携・協働し、新しい価値を生み出す「共創」により、課題解決を進めます。

 将来にわたり、行政サービスの提供を持続可能なものとするため、昨年改訂した「岩手県公共施設等総合管理計画」に基づき、県庁舎をはじめとする、公共施設の計画的な更新や長寿命化、施設配置の最適化を進めます。

 複雑化・多様化する県民ニーズに対応するため、DX人材などの確保・育成を進めます。また、デジタル技術を活用した県民サービスの向上と、希望ある岩手を実現するための、安定的で持続可能な行財政運営を推進します。

7 むすび

 今から約50年前、岩手県は、全国植樹祭を県民の森で開催しました。

 森を作る一本の木は、苗木から伐採適齢期まで、約50年かかります。いま見る成木が若木の頃、1980年代、岩手は新幹線や高速道路で首都圏とつながる「高速大量交通時代」を迎えました。県内のリゾートや都市に大規模な民間投資が行われ、県や市町村の公共投資で文化・スポーツ、交流等のための施設が作られました。1990年代前半には、全国や世界から岩手に人が集まる「4大イベント」が行われました。

 このような基盤の整備やノウハウの蓄積を背景に、21世紀が進むにつれて、岩手に生まれ育って全国や世界で活躍する若者たちが目立ってきました。

 大谷翔平選手は、メジャーリーグでMVPを獲得し、二刀流を進化させています。また、小林陵侑選手は、スキージャンプ・ワールドカップや北京オリンピックで世界一のジャンプを成し遂げています。

 文化芸術分野においても、黒沢尻北小学校合唱部や不来方高等学校音楽部が、全日本合唱コンクール全国大会で日本一という快挙を何度も成し遂げています。また、北上市出身の岡本梨奈さんが、全日本学生音楽コンクール全国大会フルート部門高校の部で優勝するなど、輝かしい成果を上げています。

 交通や通信などの技術の進歩に加え、岩手の先人の皆さんの努力と工夫によって、今、岩手に居ながらにして、日本や世界の最先端の情報を入手することができ、全国や世界に羽ばたくこと、あるいは、岩手県内で全国有数、世界有数の経済活動や社会活動、学びや暮らしを行うことが可能になっています。

 この、岩手をベースに全国や世界とつながって、希望を持って幸福を追求できる可能性は、岩手に生まれ育った人たちや、今、岩手にいる人たちのみならず、岩手県外にいる全ての人たちにも開かれています。

 いよいよ今年、2回目の全国植樹祭を本県で開催します。

 先人が守り、育んできた森林を、次の世代へと継承・発展させていくという開催理念は、県政150年の歩みと重なります。全国から多くの参加者を迎え、岩手ならではの記念式典を成功させ、東日本大震災津波からの復興の姿を世界に発信しましょう。

 世界共通のパンデミックが、そして戦後国際秩序を揺るがす戦争の影響が、地方の暮らしや仕事の現場に及び、岩手県民の生活や県民経済を脅かしていますが、私たちには、これらの危機を乗り越える力があります。先人が築いてきた基盤とノウハウの上に、今を生きる私たちが、津波の経験と復興の取組を通じて築いた基盤とノウハウを合わせて、「いわて県民計画(2019~2028)」の第2期アクションプランは作られています。

 岩手県民の知恵と力を結集した第2期アクションプランのもと、岩手県の底力を全面的に引き出して、本年、そして令和5年度が、誰もが、生活、仕事、学びに、岩手をベースに、希望を持って、お互いに幸福を守り育てることができる年となるように、ここにおられる議員の皆様、そして県民の皆様の深い御理解と更なる御協力を心からお願い申し上げ、私の所信表明といたします。

添付ファイル

令和5年2月県議会定例会知事演述全文

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