豚のサルモネラ症

Xでポスト
フェイスブックでシェア
ラインでシェア

ページ番号1007959  更新日 平成31年2月20日

印刷大きな文字で印刷

豚のサルモネラ症は発病豚の死亡や発育不良などに伴う経済的損失をもたらす疾病であるが、人の食中毒の観点からも重要視される。ここでは本病の特徴と農場における対応策を述べる。

疫学

離乳豚に発病し易く、成豚や哺乳豚の発病は稀である。多くの哺乳豚が発病を免れている事実は、移行抗体の効果と考えられている。本症は以下に述べるように、かなり高い頻度で豚群に浸潤している。昭和42年(1967年)のミズリー州の調査では病性鑑定豚の2%が、アイオワ大学の調査では肺炎罹患豚の11%および腸炎罹患豚の9%がそれぞれ本症と関連していた。
本症はSalmonella Choleraesuis感染による敗血症型およびS. Typhimurium感染の小腸結腸炎型に大別される。前者が最も一般的であり、発生農場に多大な経済的被害をもたらすが、人の食中毒との関連性は低い。米国や英国では弱毒化ワクチンが開発された平成2年(1990年)以降、その発生は減少している。後者は多量の病原菌の摂取を促す劣悪な衛生環境下で飼養されている豚群に発生し易く、人の食中毒源になり得る。

感染源

S. Choleraesuisの感染源として発病豚、保菌豚および本菌に汚染された環境が知られている。母豚から哺乳豚への感染も起こり得るが、豚以外の動物種や飼料を介した伝播は報告されていない。S. Typhimuriumの感染源は広範に及び、前述のそれらに加えて、汚染飼料および野鳥や齧歯類などの保菌動物が関与し得る。水は汚染源になりにくい。
発病豚は1グラムの糞中に106個のS. Choleraesuisあるいは107個のS. Typhimuriumを排泄する。S. Typhimuriumの実験感染後、感染後10日間は頻繁に、その後の4、5か月間は比較的頻繁に糞より同菌が分離される。感染後4、5か月後に剖検された豚の90%以上が腸間膜リンパ節、扁桃、盲腸および糞中に同菌を保有していた。
S. Choleraesuisは生糞中で3か月間以上、乾燥糞中で6か月間以上生存する。

病理発生

実験的に発病させるために必要な菌量は血清型により相違する。S. Typhimuriumでは、107以上の菌量を要するが、S. Choleraesuisではそれ以下の菌量で発病させ得る。S. Choleraesuisの腸粘膜への浸潤性は強いが、S. Typhimuriumのそれは弱い。発病豚に頻繁にみられる腸粘膜の壊死は、局所に産生されたエンドトキシンの関与により形成された毛細血管の栓塞や血管内皮細胞の壊死に起因する変化と考えられている。

臨床症状および病理学的所見

敗血症型サルモネラ症

41度前後の発熱、食欲不振、嗜眠とともに発咳がみられ、しばしば黄疸を伴う。幾例かでは、発病後3、4日以降に水様性下痢を併発する。浸潤率は10%以下であるが、致死率は高い。潜伏期間は2日から数週間であり、汚染した糞や鼻汁の経口感染により疾病が拡大する。
剖検により、耳端、四肢端および腹側腹部の皮膚にチアノーゼ、胃底部粘膜の梗塞、脾腫および腸間膜リンパ節の腫大が観察される。肺はうっ血し、硬度を増し、小葉間結合組織の水腫を伴う。しばしば、黄疸および肝臓の白色斑がみられる。
組織学的に、パラチフス結節が肝臓に、フィブリノイド血栓が胃粘膜、チアノーゼを示す皮膚および糸球体毛細血管に存在する。網内系の活性化が脾臓およびリンパ節にみられる。びまん性組織球性間質性肺炎が観察され、しばしば、フィブリノイド血栓を伴う。

小腸結腸炎型サルモネラ症

離乳後4か月齢までの子豚に頻発する。発病初期に発熱、食欲不振とともに水様性黄色下痢がみられ、後に血液あるいは粘液を混じる。下痢は3日間から7日間持続し、しばしば再発する。急速に伝播し、数日以内に豚群のほぼ全ての豚に浸潤するが、致死率は低く、大多数の豚が回復する。少数の豚は保菌豚となり、5か月間以上にわたり間欠的に同菌を排泄する。
剖検により、巣状あるいはびまん性の壊死性小腸炎、盲腸炎および結腸炎が認められる。腸壁は水腫性で、粗造な粘膜に灰黄色の退廃物が付着する。ときに、正常域との境界が明瞭なボタン状潰瘍が存在する。盲腸および腸間膜リンパ節は顕著に腫大する。
組織学的に、陰窩上皮細胞および粘膜上皮細胞は巣状あるいはびまん性に壊死に陥り、粘膜固有層および下組織におけるマクロファージ、リンパ球および好中球の浸潤を伴う。フィブリン、血小板および白血球を含む血栓が無数に存在する。壊死は固有層から粘膜筋板、下組織およびリンパ装置へと進行する。リンパ装置は初期には壊死性であるが、経過に従い再生性の過形成へと進展する。ときに、パラチフス結節が肝臓にみられる。

対策

  1. 発病豚の隔離
  2. 豚房や管理器具の消毒などによる飼養環境の改善
  3. 飼養豚へのストレス要因(新たな豚群の編成、豚房の移動、飼料の切り替えなど)の除去
  4. 抗生物質の経口投与

が一般に行われる。これらの対策を同時に、かつ継続的に行うことにより、発病豚や保菌豚からの起因菌の排泄量を減じ、未発病豚の予防効果が期待できる。
一連の防疫措置の終了後、当分の間、選抜した肥育豚の糞中に起因菌が存在しないことを確認し出荷する。

(病性鑑定課)

PDFファイルをご覧いただくには、「Adobe(R) Reader(R)」が必要です。お持ちでない方はアドビシステムズ社のサイト(新しいウィンドウ)からダウンロード(無料)してください。

このページに関するお問い合わせ

岩手県中央家畜保健衛生所 病性鑑定課
〒020-0605 岩手県滝沢市砂込390-5
電話番号:019-688-4111 ファクス番号:019-688-4012
お問い合わせは専用フォームをご利用ください。